火葬を終え、帰りの車の中はしんみりと静かだった。ミケのお骨を抱えた私の表情は穏やかで、娘のゆきとさおりは窓の外を眺めながら何か考えている。そんな中、夫がぽつりとつぶやいた。「ミケ、ちゃんと旅立てたかな」「うん。きっとね」 私が優しく答える。
ゆきも静かに言った。
「パパ、ミケは大丈夫だよ。だって、パパがずっと抱っこしてたじゃん」
「そ、そうかな」
夫は照れくさそうに鼻をこすった
玄関に入るなり、私はスッとスマホを取り出した。
「さて。メモリアルダイヤモンド、調べてみようかしら」
「えっ、もう!?」
夫が慌てて靴を脱ぎながら叫ぶ。
「だって、気になるじゃない。ミケがどんな風に輝くのか」
「いや、気になるけど。その。心の準備が」
「あなた、心の準備多くない?」
「だってさぁ!」
長女のゆきがタブレットを開きながら冷静に言う。
「パパ、メモリアルダイヤモンドって、色も選べるんだよ。青とか黄色とか」
「えっ、ミケが青に!? それはそれでカッコいいけど!」
「パパ、落ち着いて。まだ決めてないよ」
「とりあえず資料請求してみましょうか」
私は、画面をスクロールしながら言う。
夫はソファから身を乗り出した。
「ちょ、ちょっと待って!資料って、無料?」
「無料よ」
「よかったぁ!」
さおりが冷静に刺す。
「パパ、資料が無料でもダイヤは無料じゃないよ」
「うっ!」
夫は胸を押さえた。
「さおり。お前、最近ツッコミが鋭すぎないか?」
「事実を述べてるだけだよ」
私はそんな二人を横目に、資料請求はこちらのボタンに指を伸ばした。
その瞬間、夫の、父としての本音がこぼれる
「おれ、」
夫が静かに呼び止めた。
「ミケがダイヤになるって、すごく特別なことだよな。 俺、正直ちょっと怖いんだ。なんか、ミケが遠くに行っちゃう気がして」
私は手を止め、夫を見つめた。
「あなた。ミケはどこにも行かないわよ。形が変わっても、ずっと家族よ」
ゆきも優しく言った。
「パパ、ミケはパパのこと大好きだったよ。ダイヤになっても、パパのそばにいるよ」
夫は目を赤くしながら、照れくさそうに笑った。
「そっか。そうだよな」
私はそっと夫の手に触れ、そして、資料請求ボタンを押した。
運命の封筒
数日後。ポストに一通の封筒が届いた。
「来たわね!」
私が封筒を掲げる。
夫はなぜか背筋を伸ばし、ゆきはタブレットを構えて調査モードに入る。
「ミケがどんなダイヤになるのか」
「パパ、落ち着いて」
「落ち着いてる! 落ち着いてるぞ!」
わが家のリビングに、新たなドタバタの予感が満ちていった。
資料を開いたら、夫が固まった
リビングのテーブルに、届いたばかりの封筒が置かれた。
私がハサミで丁寧に開封し、中から冊子やパンフレットを取り出す。
「わぁ、綺麗ね」
「ほんとだ」
さおりが興味津々で覗き込む。
夫は、というと、なぜか背筋を伸ばし、 校長先生の話を聞く小学生のさおりと同じような姿勢で座っていた。
「よし覚悟はできてる」
「あなた、そんなに緊張しなくても」
「いや、なんかこう、大事な儀式みたいで」
まずは色のバリエーション
私がページをめくると、色とりどりのダイヤモンドが並んでいた。
「見て、ブルー、イエロー、クリアいろいろあるのね」
「ミケ、青も似合いそう」
さおりが言う。
夫は目を丸くした。
「えっ、ミケが青!? いや、黄色も、いや、透明も、えっ、どうしよう!」
「あなた、落ち着いて」
「落ち着いてる! 落ち着いてるつもりなんだが!」
長女のゆきが冷静に分析する。
「パパ、ミケは白い毛だったから、クリアが一番自然かもね。でも、青も空に羽ばたく鳥の絵と合うし」
「ゆき、お前プロデューサーみたいだな」
「事実を述べてるだけだよ」
サイズ表で夫がフリーズ
私が次のページを開くと、そこにはカラット別のサイズ比較が載っていた。
「へぇ。こんなに違うのね」
「大きいのも、小さいのもあるんだね」
さおりが言う。
夫は固まった。
「・・・」
「あなた?」
「・・・」
「パパ、フリーズしてる」
「・・・」
私がそっと肩を叩くと、夫はようやく口を開いた。
「こ、こんなに大きさが違うのか」
「そうね」
「ミケ。どのサイズがいいんだろうな」
「あなた、ミケはぽっちゃり小型だから、サイズは自由よ」
「そ、そうか!」
値段表で夫が崩れ落ちる
私が最後のページを開いた瞬間、夫の顔色が変わった。
「・・・」
「あなた?」
「・・・」
「パパ、またフリーズ?」
「いや、これはフリーズじゃなくて、ショックだ!」
夫はソファに倒れ込み、天井を見つめた。
「ミケ、お前、こんなに高級な存在だったのか」
「あなた、ミケは前から高級よ」
「俺、その言葉が今は刺さる!」
ゆきが冷静に言う。
「パパ、値段は選ぶ色やサイズで変わるから、落ち着いて考えよう」
「ゆき、お前が一番頼もしいよ!」
家族会議
私が冊子を閉じ、三人はテーブルを囲んだ。
「ミケをどういう形で残すか、家族で決めましょう」
「うん」
「そうだな」
夫は深呼吸をして、真面目な顔になった。
「ミケは俺たちの家族だ。形が変わっても、ずっとそばにいてほしい。 だから俺は賛成だ」
さおりが優しく笑う。
「パパ、いいこと言うね」
「お、おう。たまにはな」
私も微笑んだ。
「じゃあ、次はどんなダイヤにするかを考えましょうか」
「えっ、まだ続くのか!」
「当たり前でしょ」
「そ、そうだよな!」
わが家のダイヤモンド選びは、まだ始まったばかりだった。
色とサイズで紛糾
資料を広げたまま、わが家のリビングはすっかり宝石サロンのような雰囲気になっていた。
「じゃあ、まずは色から決めましょうか」
私が言うと、夫はすぐに手を挙げた。
「俺はクリアがいいと思う!」
「パパ、理由は?」
ゆきが冷静に尋ねる。
「えっ、えっと。透明って、なんかこう純粋な感じがして」
「パパ、語彙力」
「うっ!」
私は笑いながら言った。
「私はブルーも素敵だと思うのよね。ミケ、空を見るの好きだったし」
「確かに」
ゆきがうなずく。
夫は焦った。
「えっ、じゃあ、クリアは?」
「却下じゃないわよ。まだ候補よ」
「そ、そうか。よかった。」
ゆきはタブレットを操作しながら、
まるで宝石鑑定士のような口調で語り始めた。
「ミケの毛色は白。性格は温厚で、ちょっと食いしん坊。 そう考えると、ブルーは知的で落ち着いた印象。クリアは純粋でシンプル。イエローは明るくて元気な感じ」
夫が感心して言う。
「ゆき、お前。将来、宝石店で働けるんじゃないか?」
「パパ、私は獣医さんになりたいんだけど」
「そ、そうだったな!」
サイズでまた大混乱
私がサイズ表を広げる。
「じゃあ、次はサイズね」
夫はまた緊張した顔になった。
「お、おう」
ゆきが指差す。
「この0.2カラットくらいが普段使いしやすいんだって」
「普段使い?」
夫が固まる。
「パパ、ママが指輪にするかもしれないでしょ」
「えっ、俺がミケを指に?」
夫は想像して胸がいっぱいになった。
「あなた、そんなに感動しなくても」
「いや。なんかミケが、俺の手を守ってるみたいで」
「パパ、そういうところはいいんだよね」
「お、おう!」
デザインで白熱
私がページをめくる。
「デザインもいろいろあるのね。ペンダント、指輪、キーホルダー」
夫が慌てて言う。
「キーホルダーはやめよう。俺、絶対どこかに落とす自信がある」
「自信持つところが違うわよ」
私が笑う。
ゆきが言う。
「私はペンダントがいいと思う。ママがつけてもいいし、私が大きくなってから受け継げるし」
「ゆき。お前、そんなことまで考えて」
夫はまた涙ぐんだ。
「パパ、泣くの早いよ」
「いや。なんか成長したなぁって」
「パパの涙腺、最近ゆるすぎ」
「うっ…!」
家族会議は1時間以上続いた。
そして。
「じゃあ、ミケはブルーの0.2カラット、ペンダントで決まりね」
私がまとめる。
夫は深くうなずいた。
「うん。ミケらしいと思う」
「パパ、最初クリアって言ってたけど?」
「いや、ブルーもいいなって、思ってたんだよ、途中から」
「パパ、優柔不断」
「うっ!」
でも、夫の顔はどこか誇らしげだった。



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