ある日の午後。南区の理容院はいつものように静かで、店主はヨレヨレタオルを畳みながら、「今日は暑いのう」とつぶやいていた。そこへ、タダシさんが店の前を通りかかった。そういえばホームページのこと。店主さん、どう思っとるんじゃろう。彼はそう思った。ガラケーしか持っていない店主が、ホームページをどう理解しているのかは謎だが、気になって店に入ってみた。
店主、なぜか妙にソワソワしている
タダシさんが店に入ると、
店主が落ち着かない様子で鏡を拭いていた。
「おう、来たんか」
その声はいつも通りだが、
どこか浮ついている。
タダシさんは思った。
(これは、何かあるな)
店主はハサミを整えながら、
急にタダシさんに聞いた。
「なあ。ホームページって、
わしの顔、世界中に出とるんか?」
タダシさんは吹き出しそうになった。
「いや、世界中って。まあ、見ようと思えば見られますけど」
店主は目を輝かせた。
「ほうか!
ほんなら、わしもついに世界デビューじゃの!」
(いや、そんな大げさな)
店主、勝手にスター扱いを始める
店主は鏡の前に立ち、
急に髪を整え始めた。
「写真は、載っとらんのんじゃろ?」
「はい、載せてません」
「ほんなら、載せてもええで。
わし、最近ちょっと若返っとるしの」
(いや、若返ってはない)
店主はさらに続けた。
「世界中の人が見るんじゃったら、
わしもサインの練習しといたほうがええかの」
例の短髪男と呼ばれているタダシさんは、思わず言った。
「店主さん、サイン求められることはないと思いますよ」
店主は真顔で言った。
「いや、わからんで。
南区の伝説の理容師として有名になるかもしれん」
(伝説って誰が言ったんだ)
店主の暴走は止まらない
店主は突然、店の奥から
古いスーツを持ってきた。
「ホームページに載るんなら、
これ着たほうがええんかの?」
タダシさんは慌てて止めた。
「いやいや、店主さん、写真載せませんから!」
店主はスーツを抱えたまま固まった。
「載せんのん?」
「はい、載せません」
店主はしばらく考えたあと、
スーツをそっと元の場所に戻した。
しかし、最後に店主が言ったこと
帰り際、店主がぽつりと言った。
「まあ、写真が載っとらんでもええわい。
あんたが作ったホームページなら、
それだけでええもんじゃ」
その言葉に、例の短髪男・タダシさんは思わず笑った。
(暴走してたけど、やっぱり店主さんは店主さんだ)
そして店主は今も言う
「わしはガラケーじゃけえ見れんけどの、
ホームページに載っとるわしは、
きっと男前なんじゃろう」
南区の小さな理容院には、
今日もそんな店主の勘違いと優しさが
静かに積み重なっている。




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