資料を読み終えたわが家全員は、ついに申し込みという最終ステップに向き合うことになった。リビングのテーブルにスマホを置き、私が言う。 「じゃあ、申し込みフォームを開くわね」
申し込みフォームに挑む夫
夫は、なぜか背筋を伸ばして座った。
「よし。俺も手伝うぞ」
「あなた、そんなに緊張しなくても」
「いや、なんかこう、大事な書類を書く気分で」
小学生の次女・さおりが冷静に言う。
「パパ、オンラインだから。紙じゃないよ」
「そ、そうだったな!」
名前入力でつまずく
私が入力を始める。
「名前は、ミケ、と」
「よし、順調だな」
夫がうなずく。
しかし、次の瞬間、
「あなた、これ申込者の名前だから、あなたの名前よ」
「えっ、俺なの!?」
「だって、ミケの世話係だったでしょ」
「そ、そうだけど!」
さおりが横から冷静に刺す。
「パパ、責任者ってことだよ」
「責任者!?」
夫は急に緊張し、背筋がさらに伸びた。
夫がスマホを受け取り、住所を入力しようとする。
「えっと。広島市、あれ?広島ってどうやって変換すんだ?」
「あなた、スマホ歴何年?」
「いや、ほら。緊張して指が震えて!」
さおりが横からスッとスマホを奪い、
「はい、入力完了」
と、3秒で終わらせた。
「さおり…。お前、天才か?」
「普通だよ」
「普通で、それか!」
希望の色・サイズは
私が確認する。
「色はブルー、サイズは0.2カラット、デザインはペンダントでいいわね」
「うん、ミケらしいと思う」
夫がうなずく。
しかし次の瞬間、
「でも、ブルーって本当にミケに似合うかな?」
「あなた、今さら!?」
「いや、なんかこう、急に不安になって!」
長女のゆきが冷静に言う。
「パパ、昨日の家族会議で決めたよね」
「そ、そうだったな!」
最後にメッセージ欄が現れた。
「ご希望やメッセージがあれば、ご記入ください」
私が言う。
「あなた、ここは、あなたが書いたら?」
「えっ、俺が?」
夫はしばらく考え、
スマホを握りしめて、ゆっくりと文字を打ち始めた。
「ミケは家族でした。 大切にしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。』
さおりがそっと言う。
「パパ。いいね、それ」
「お、おう。なんか照れるな」
私も微笑んだ。
「あなたらしい、優しいメッセージね」
「じゃあ、押すわよ」
私が指を伸ばす。
夫は息を飲み、
ゆきとさおりも静かに見守る。
ピッ。
画面に送信完了の文字が表示された。
夫は、大きく息を吐いた。
「終わった。ついに!」
「あなた、そんな、大仕事みたいに言わなくても」
「いや、なんかこう。ミケの未来を決めた気がして!」
さおりが笑う。
「パパ、ちょっと大げさ」
「うっ!」
担当者からの電話
申し込みを終えて数日。
わが家のリビングは、どこか落ち着かない空気に包まれていた。
夫は、ソワソワしながらテレビを見ている。
私は、お茶を飲みながら資料を読み返し、
さおりは、タブレットでダイヤモンドの生成工程を調べていた。
そんなとき
プルルルルル
電話が鳴った。
「ひっ!」
夫が飛び上がる。
私はスマホを見る。
「メモリアルダイヤモンドの会社からだわ」
「えっ、えっ、えっ!」
夫の顔が、一瞬で青ざめた。
次女のさおりが冷静に言う。
「パパ、落ち着いて。普通に話せばいいよ」
「む、無理だ!俺、こういうの緊張するんだ!」
「パパ、会社の電話じゃないんだよ?」
「それでも、緊張するんだ!」
私がスマホを夫に渡す。
「はい、あなた。どうぞ」
「えっ、俺が出るの!?」
「申込者はあなたよ」
「そ、そうだった!」
夫は深呼吸をして、
震える指で通話ボタンを押した。
「も、もしもし」
『メモリアルダイヤモンドの亀山と申します』
「は、はいっ!」
声が裏返った。
『この度は、お申し込みありがとうございます。
いくつか、確認事項がありまして』
「は、はい!なんでも聞いてください!」
夫は、なぜか面接を受ける学生のような姿勢になっていた。
まさかの確認事項
『まず、ミケちゃんのお骨の量についてですが』
「お、お骨の量?」
夫は焦って私を見る。
私が小声で言う。
「大丈夫よ、普通に答えればいいの」
「ふ、普通ってなんだ!」
さおりがメモを渡す。
「パパ、火葬場でもらった説明書に書いてあるよ」
「さおり、お前は天使か!」
夫は震える声で答えた。
「えっと、このくらいで大丈夫でしょうか?」
『はい、十分でございます。ありがとうございます』
夫は胸をなでおろした。
「最後に、完成後の受け取り方法ですが。ご自宅に郵送か、店舗でのお受け取りかお選びいただけます」
夫は固まった。
「・・・」
「あなた?」
私が心配そうに覗き込む。
「ど、どうしよう。郵送だと。なんかこう。ミケが宅配便で来るみたいで。でも店舗だと緊張するし」
さおりが冷静に言う。
「パパ、どっちでも、ミケはミケだよ」
「そ、そうだよな!」
夫は意を決して言った。
「郵送でお願いします!」
『かしこまりました』
夫、崩れ落ちる
通話が終わると、夫はソファに倒れ込んだ。
「つ、疲れた。俺、こんなに緊張したの久しぶりだ」
「あなた、よく頑張ったわよ」
私が笑う。
ゆきも言う。
「パパ、ちゃんと話せてたよ。声は裏返ってたけど」
「ゆき、そこは言わなくていい!」
私が静かに言った。
「これで、ミケのダイヤモンド制作が始まるのね」
夫は、天井を見上げながらつぶやいた。
「ミケ。楽しみにしてるからな」
さおりが優しく笑う。
「パパ、ミケもきっと喜んでるよ」
わが家のリビングには、
どこか温かい空気が流れていた。



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