広島駅前から徒歩8分。木の香りがふわっと漂う サンタ第2工房では、今日もミクさんが木の積み木を磨き、タダシさんが端材を整理していた。夕方、作業がひと段落したころ。タダシさんが、ふとミクさんに声をかけた。
「ミクさん、ひとつ聞いてもいいですか。
どうやってこの工房が始まったんです?」
ミクさんは手を止め、少しだけ目を丸くした。
「まあ、そんなこと聞いてくださるのね。
長くなるけどいい?」
「もちろんです」
タダシさんは木の粉を払って、素直にうなずいた。
🌲きっかけは、広島駅前の帰り道
「実はね、工房を始めたのはスーパーの帰り道だったのよ」
ミクさんは、懐かしそうに笑った。
「広島駅前の喧騒を背に軽ワゴンを運転しててね。
ラジオもつけず、ただエンジン音だけが響いてる中で、ふっと思ったの。
食育があるなら、木育があってもいいんじゃない?って」
タダシさんは興味深そうに身を乗り出した。
「木育?」
「そう。森を大事にする心とか、国産材の未来とかね。
材木店で働いてたから、余計に気になったのよ」
🟤ビー玉コロコロの記憶
ミクさんは棚の上の古い木のおもちゃを指さした。
「それで思い出したの。
私が3歳のときにもらったビー玉コロコロ。
木のかごの中でビー玉が転がるだけの、すごくシンプルなおもちゃなんだけど
子どものころ夢中で遊んでね。
その音に癒されたのよ」
タダシさんは、ほっこりしたように笑った。
「なんかわかる気がします」
🪧広島駅前の空きテナントを見つけた日
「その帰り道、信号待ちでふと前を見たら、
古びたビルの空きテナントが目に入ったのよ。
あそこがサンタさんの工房だったらどうかしらって、
自分で言っておきながら、笑っちゃったのね」
ミクさんは少し照れたように笑った。
「家に帰って、冷蔵庫のマグネットにメモを貼ったら、
次女がサンタって木でできてるの?って聞くのよ。
だから、ええ、たぶんね。心もプレゼントも木のぬくもりでできてるのよって答えたの」
タダシさんは思わず吹き出した。
「ミクさんらしいですね」
🏢運命の物件との出会い
「そのあと、PTAの資料を返しに行く途中で、また別の空き店舗を見つけてね。
常盤不動産さんに電話したら、地下道の入り口近くにいい物件があるって。
家賃12万円。駅から近くて、子ども連れでも来やすい場所だったの」
「即決したんですか?」
「まあ、気持ちは即決だったけど契約書にサインしたのは翌々月よ。
手が震えちゃってね。担当者さんが寒いですねって笑ってくれたの」
🔨誰にも言わずに進めた準備期間
「それから3か月間、誰にも言わずに準備したの。
看板は材木店の端材で自作して、
職人さんに学校の工作で使うのでってお願いしてこっそり切ってもらったり。
木工職人さんに手紙を書いて商品を仕入れたりね」
タダシさんは目を輝かせた。
「ミクさん、そういうところ本当に丁寧ですよね」
「へそくりと、材木店の経費節約で開店資金を捻出したのよ。
夫も、こっそり看板代を払ってくれてね」
🌸開店の日、そしてサンタさんの出張所
「開店日は春の終わり。桜が舞う中で鍵を開けたとき、胸がいっぱいになったわ。
そこへ、ママ友のみわさんが通りかかってかわいい!って驚いてね」
ミクさんは笑った。
「サンタさんの出張所なの。たまに夢を届けに来てくださるのよって言ったら、
みわさんがじゃあ私、トナカイ役がいいわ!って」
タダシさんも笑った。
🪵木工教室と、子どもたちの笑顔
「木のおもちゃって長く使えるから、リピーターにはなりにくいのよ。
だから夏休みに木工教室を始めたの。
マイ箸を作ろう!ってテーマでね。
転校した親友と再会した女の子たちが、麦茶で乾杯してたときは
本当に胸が温かくなったわ」
🪑そして今、サンタ第2工房は
「生活はギリギリだったけど、材木店の納品を手伝ったり、棚や看板の注文を受けたりして
気づけば、朝はお弁当、昼は店番、夕方は納品、夜は帳簿。
夕飯がレトルトカレー続きの日もあったわ」
ミクさんは、店の片隅のソファに目を向けた。
「でもね、不思議と疲れてなかったの。
ここは私の城だって感じたのよ。
誰にも邪魔されず、自分の好きなものを並べて、
子どもたちの笑顔を想像しながら仕事ができる場所」
タダシさんはしばらく黙ってから、静かに言った。
「ミクさんすごく素敵な話です。
僕、この工房で働けて本当に嬉しいです」
ミクさんは、やわらかく微笑んだ。
「ありがとう、タダシさん。
これからも、よろしくね」
工房には、木の香りと、
二人の穏やかな空気が静かに満ちていた。





コメント