広島駅前徒歩8分。サンタ第2工房の夕方は、木の香りと静かな作業音が心地よく響く。しかし、毎週金曜日だけは少し違う。タダシさんが、宮城県北の実家――栗原市のほうへ帰省する日なのだ。
🚗毎週土曜日のタダシロス
金曜の午後。タダシさんが帰る準備をしていると、ミクさんがさりげなく声をかける。
「タダシさん、今日もご実家ですか?」
「はい。母の様子を見に行ってきます。明後日の日曜日夕方には戻りますので」
「そう。気をつけてね」
その言い方が、ほんの少しだけ寂しそうなのを、タダシさんは気づいていた。
そして帰省した夜。
栗原市の実家で夕飯を食べ終えたころ、スマホが震える。
ミクさんからだ。
「タダシさん、今どこですか?」
「実家ですよ。今日はゆっくりしてます」
「そう。工房、静かすぎて。なんだか変な感じなのね」
そんな電話が毎週のようにかかってくる。
内容は他愛もない。
「今日の工房、田中さんがまた寸法間違えたのよ」
「新しい木材、香りがすごく良かったわ」
「栗原って、夜は星がきれい?」
まるで、工房の空気を共有したいかのように。
タダシさんは、少し照れながらも毎回丁寧に答えていた。
📵そして事件は起きた
ある金曜日。
タダシさんは実家に着くと、スマホをマナーモードにしたまま、設定を戻すのを忘れてしまった。
その夜。
ミクさんは、いつものように電話をかけた。
しかし――
呼び出し音が鳴らない。
留守番電話にもならない。
既読もつかない。
「え?」
ミクさんの胸がざわついた。
もう一度かける。
つながらない。
三度かける。
つながらない。
「タダシさん?」
不安がじわじわと怒りに変わっていく。
🔥翌朝、怒り爆発
翌朝。
タダシさんがスマホを見ると、通知が山ほど来ていた。
「ミクさんから?」
慌てて折り返すと、電話はすぐにつながった。
「タダシさん」
その声は、いつもの柔らかさとは違っていた。
「昨日、何度も電話しました。どうして出なかったんですか?」
「すみません。マナーモードのままで気づかなくて」
「気づかなくて、じゃないですよ。工房のこと、急ぎのこと、相談したいこといろいろあったんです」
ミクさんの声は震えていた。
「毎週、帰省するのはいいんです。でも、連絡が取れないのは困ります。仕事ですし、それに」
少し間があいた。
「心配するじゃないですか」
タダシさんは、胸がぎゅっとなった。
「本当に申し訳ありません。以後、必ず設定を確認します」
「お願いします。もう、あんな思いはしたくないので」
🌙その日の夜、少しだけ優しい声
その日の夜。
ミクさんから、短いメッセージが届いた。
「今日はちゃんとつながりましたね。よかったです」
タダシさんは、少し笑った。
「はい。もう二度と設定ミスはしません」
「ならいいです。では、明日もよろしくお願いします」
その言葉は、ほんの少しだけ柔らかかった。
🌲工房は今日も稼働中
翌日。
タダシさんが工房に戻ると、ミクさんはいつものように作業台に向かっていた。
「おはようございます、ミクさん」
「おはようございます。昨日はまあ、もういいです。さ、今日の作業を始めましょうか」
その声は、いつものミクさんだった。工房には、木の香りと、ちょっとした人間らしい温度が満ちていた。





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