営業④|医局でドタバタしながら存在感を勝ち取る

営業のタダシ04 営業
営業のタダシ04

医療機器代理店の営業マンとして、
昨日は初めて名前を呼ばれたタダシさん。

(よし。今日はもっと存在感を出すぞ!
昨日は名刺渡し係に昇格したんだ。
今日は、話しかけられる係くらいにはなりたい!)

そんな野望を胸に、
タダシさんは医局へ向かった。

医局の前で気合を入れる

深呼吸。
深呼吸。
深呼吸。

「失礼します。本日も伺いました!」

勢いよくドアを開けたその瞬間。

「おっと!」

医局のドアの向こうで、
医師がカルテの山を抱えて歩いてきた。

タダシさんは慌てて避けようとして

足がコードに引っかかった。

「うわっ!」

バランスを崩し、
持っていた資料が空中に舞った。

医師たちの頭上を、
医療機器のパンフレットがヒラヒラと飛んでいく。

「え?」「何?」「紙が降ってきたぞ?」

医局が一瞬だけ静まり返った。

空中の資料をキャッチしようとしてさらに転ぶ

「す、すみません!拾います!」

タダシは、慌てて資料をキャッチしようとした。

しかし

滑った。

「うわあああ!」

床に置かれたアルコール綿の袋を踏んでしまい、
見事にすべって転んだ。

医局の床に、
タダシさんが大の字になった。

医師たちは一瞬固まったが

「大丈夫?」

昨日、名前を呼んでくれた医師が声をかけた。

「だ、大丈夫です!」

タダシさんは、
資料を抱えながら立ち上がった。

医局に笑いが起こる

その瞬間、
医局の空気がふっと変わった。

「昨日のタダシくんだよね?」
「今日も来たのか」
「なんか元気だな」
「転び方が派手だったぞ」

医師たちが笑っている。

昨日までの無関心とは明らかに違う。

(え?
笑われてる?
でもなんか昨日より空気が柔らかい?)

タダシさんは、
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

医師からまさかの質問

「タダシくん、今日の資料は、何?」

昨日、名前を呼んでくれた医師が聞いてきた。

「こ、こちらです!
新しいモニターの紹介で」

「昨日のやつより分かりやすい?」

「はい!昨日より転びながら作りました!」

医局に再び笑いが起こった。

「転びながら作ったって何だよ」
「まあいいや、あとで読むよ」

昨日より明らかに距離が近い。

医局を出た瞬間、タダシさんは悟る

廊下に出たタダシさんは、
資料を抱えながら深く息をついた。

(今日転んだだけなのに
なんか、昨日より話しかけてもらえた)

昨日のサトウ課長の言葉がよみがえる。

  • 安心感を売る
  • 顔を売る=信頼を得る
  • 儲ける=信者をつくる

(今日の転び方
もしかして、安心感になったのか?
いや、違うか
でも、医局の空気が柔らかくなったのは確かだ)

タダシさんは、
営業とは完璧な人間になることではなく、
人間らしさを見せることなのかもしれないと
ぼんやり思った。

この日、タダシさんはまだ知らない

今日のドタバタが、
医局との距離を縮める大きな一歩だったことを。

そして、
後にミクさんと出会い、
「決定権は私」という価値観へつながっていく
伏線になっていることを。

物語は、まだまだ続く。

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