営業⑤|医局で初めて雑談が成立する

営業のタダシ05 営業
営業のタダシ05

昨日は医局で派手に転び、
資料を空中に舞わせ、
医師たちに笑われながらも距離が縮まったタダシさん。

(よし。今日は転ばずに距離を縮めるぞ!
昨日は転倒で存在感を出したけど
今日は、ちゃんと営業マンとして存在感を出すんだ!)

そんな決意を胸に、
タダシさんは医局へ向かった。

医局の前で慎重になる

深呼吸。
深呼吸。
深呼吸。

(今日は、絶対に転ばない
絶対にコードを踏まない
絶対にアルコール綿の袋を踏まない)

慎重にドアを開けた。

「失礼します。本日も伺いました!」

医局の空気は昨日より柔らかかった。

「あ、昨日のタダシくんだ」
「今日も来たのか」
「転ばないように気をつけてね」

医師たちが笑いながら声をかけてくる。

(え?俺、もう転ぶ人として認識されてる?
いや、でも昨日より優しい!)

雑談のチャンス、突然訪れる

おととい、名前を呼んでくれた医師が、
カルテを閉じてこちらを見た。

「タダシくん、今日の資料は何?」

「こちらです!新しいモニターの紹介で」

「ふーん。ところでさ」

医師は急に話題を変えた。

「タダシくん、昨日の転び方、すごかったよね」

医局がざわついた。

「そうそう、あれは芸術点高かった」
「スローモーションみたいだったぞ」
「資料が空中で回転してた」

タダシさんは、顔が真っ赤になった。

「す、すみません!」

「いや、謝らなくていいよ。
むしろ、あれで場が和んだんだよ」

(え?自分の転倒、医局の空気を和ませた?)

医師は続けた。

「タダシくん、スポーツとかやってた?」

「い、いや運動は苦手で」

「だよね。転び方でわかった」

医局に笑いが起こった。

雑談が成立する

「タダシくん、出身どこ?」
「広島です!」
「広島か。カープファン?」
「はい!カープが負けると翌日テンション下がります!」
「わかるわかる」
「昨日の転び方、カープの選手より派手だったぞ」
「やめてください!」

医局が笑いに包まれた。

昨日までの無関心とは明らかに違う。

(え?
これ雑談?
俺、医局で雑談してる!?)

タダシさんは、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

医師からまさかのひと言

「タダシくん、また来てよ。
君が来ると医局がちょっと明るくなるから」

タダシさんは、思わず固まった。

(え?
俺医局を明るくしてる?
昨日転んだだけなのに?
いや、今日は転んでないのに?)

胸の奥の火が、また少し大きくなった。

帰り道、タダシさんは悟る

コンビニの缶コーヒーを飲みながら、
昨日よりさらに明るい空を見上げた。

(営業って
商品を売る前に、
まず人として話せる関係を作ることなんだな)

昨日のサトウ課長の言葉がよみがえる。

  • 安心感を売る
  • 顔を売る=信頼を得る
  • 儲ける=信者をつくる

(今日の雑談。
もしかして、安心感になったのかもしれない)

タダシさんは、
営業マンとしての成長を少しだけ実感した。

この日も、タダシさんはまだ知らない

今日の雑談が、
医局との距離を縮める大きな一歩だったことを。

そして、
後にミクさんと出会い、
「決定権は私」という価値観へつながっていく
伏線になっていることを。

物語は、まだまだ続く。

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