営業⑥|医局で初めて頼まれごとをされる

営業のタダシ06 営業
営業のタダシ06

医局で初めて雑談が成立し、
「転ばない営業マン」として少しずつ認知され始めたタダシさん。

(よし。今日は、雑談マンから役に立つマンに昇格するぞ!
昨日は、転倒で距離を縮めたけど
今日はちゃんと、仕事で距離を縮めるんだ!)

そんな決意を胸に、
タダシさんは医局へ向かった。

医局の前で慎重になる男(再び)

深呼吸。
深呼吸。
深呼吸。

(今日は絶対に転ばない
昨日は転ばなかった
今日も転ばない
転倒キャラを定着させてはいけない)

慎重にドアを開けた。

「失礼します。本日も伺いました!」

医局の空気は昨日よりさらに柔らかかった。

「あ、タダシくんだ」
「今日も来たのか」
「転ばないようにね」
「もう転ばないキャラでいこうね」

(転ばないキャラ?
昨日まで転ぶキャラだったのに?
医局の中で俺のキャラ設定が変わっていく!)

頼まれごと、突然訪れる

昨日名前を呼んでくれた医師が、
カルテを閉じてこちらを見た。

「タダシくん、ちょうどよかった」

タダシさんは、心臓が跳ねた。

(え?
ちょうどよかった?
俺、必要とされてる?)

医師は続けた。

「この前の資料、もう一部ほしいんだ。
外来の先生にも見せたいから」

タダシさんは、思わず資料を落としそうになった。

「えっ?あ、あの私の資料を?」

「そう。
昨日の説明、わかりやすかったし。
外来の先生にも共有したいんだよ」

(わかりやすかった!?
俺の資料が!?
昨日転んだ人間の資料が!?)

タダシさんは、胸の奥がじんわり熱くなった。

「すぐ、持ってきます!」

さらに頼まれごとが続く

資料を渡すと、別の医師が声をかけてきた。

「タダシくん、ちょっといい?」

「はい!」

「この機器のカタログ、最新版ある?
古いのしかなくて困ってたんだよ」

「あります!持ってきます!」

さらに別の医師が言った。

「タダシくん、今日の午後に業者説明会あるんだけど、
その前に簡単に使い方だけ教えてくれない?」

「えっ?私がですか?」

「そう。
タダシくん、説明うまいから」

(説明うまい!?
俺、昨日転んだだけなのに!?
いや、今日は転んでないけど!?)

医局の空気は、昨日よりさらに柔らかくなっていた。

医局を出た瞬間、タダシさんは悟る

廊下に出たタダシさんは、
資料を抱えながら深く息をついた。

(頼まれた
俺、医局で初めて頼まれた
昨日まで名刺置き係だったのに
今日は頼まれごと係になった!)

昨日のサトウ課長の言葉がよみがえる。

  • 安心感を売る
  • 顔を売る=信頼を得る
  • 儲ける=信者をつくる

(今日の頼まれごと
もしかして、信頼の始まりなのかもしれない)

タダシさんは、
営業マンとしての成長をまたひとつ実感した。

この日のタダシさんはまだ知らない

今日の頼まれごとが、
医局との距離を縮める大きな一歩だったことを。

そして、
後にミクさんと出会い、
「決定権は私」という価値観へつながっていく
伏線になっていることを。

物語は、まだまだ続く。

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