営業⑨|初めて安心感を渡せた瞬間

営業のタダシ09 営業
営業のタダシ09

医局で「転ぶマン」「頭ぶつけマン」「頼られるマン」と
キャラが増殖し続けている、タダシさん。

しかし、今日は違った。

(よし。今日は、安心感マンになるぞ!
昨日は、ありがとうマンだった
今日は、もっと、営業マンらしい活躍をするんだ!)

そんな決意を胸に、
タダシさんは医局へ向かった。

医局の前で慎重になる男(5日連続)

深呼吸。
深呼吸。
深呼吸。

(今日は、絶対に転ばない
絶対に頭をぶつけない
絶対にコードを踏まない
俺は今日、安心感を渡すんだ!)

慎重にドアを開けた。

「失礼します。本日も伺いました!」

医局の空気は、もはやタダシくん、今日も来たねの常連扱いだった。

「あ、タダシくんだ」
「今日も来たのか」
「昨日は頭ぶつけてたよね」
「今日はぶつけないでね」

(ぶつけキャラ?
俺、医局でキャラが増えすぎてる!?)

医局の空気がいつもと違う

あの最初に名前を呼んでくれた医師が、
カルテを閉じてこちらを見た。

「タダシくん、ちょっといい?」

(きた!
営業マンのご褒美ワード!)

しかし、医師の表情はいつもより少し険しかった。

「この機器、急に動かなくなったんだよ。
午後の手術で使う予定なんだけど」

医局の空気がピリッとした。

(え?
今日なんか雰囲気違う?
これガチのやつ?)

医師は続けた。

「メーカーに電話したけど、つながらなくてさ。
どうしようかと思ってたんだよ」

(どうしようか?
俺にどうしようかって言ってる?
俺、今日頼られ度が高い!?)

タダシさん、慎重に機器を確認する

タダシさんは、機器の前にしゃがみこんだ。

(昨日は頭をぶつけた
今日は絶対にぶつけない
今日は安心感マンになるんだ!)

慎重に、慎重に

ゴンッ。

「え?」

医局がざわついた。

「今の音、タダシくん?」
「またぶつけた?」
「昨日より軽い音だったな」

タダシさんは涙目になりながら言った。

「だ、大丈夫です!」

医局に笑いが起こったが、
すぐに空気は真剣に戻った。

原因は意外なところにあった

タダシさんは、機器の裏側を慎重に確認した。

(昨日は、電源抜けてた
今日は違う
今日は、もっと複雑な原因だ!)

しかし

電源コードが半分抜けていた。

「あ」

医師が言った。

「タダシくん、それ電源じゃない?」

「す、すみません!」

コードをしっかり差し込むと

機器が正常に動き始めた。

医局が一気に明るくなった。

「おお、動いた!」
「助かった!」
「タダシくん、ありがとう!」

(え?
俺、今日、安心感渡した!?
電源コード差しただけなのに!?)

胸の奥がじんわり熱くなった。

医師からまさかのひと言

「タダシくん、ありがとう。
君が来てくれて本当に助かったよ」

その言葉は、
昨日の「ありがとう」とは違った。

もっと重くて、
もっと深くて、
もっと信頼がこもっていた。

(これ?これが、安心感?)

タダシさんは、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

帰り道、タダシさんは悟る

コンビニの缶コーヒーを飲みながら、
昨日より、さらに明るい空を見上げた。

(営業って、商品を売る前に、まず安心感を渡すことなんだな)

昨日のサトウ課長の言葉がよみがえる。

  • 安心感を売る
  • 顔を売る=信頼を得る
  • 儲ける=信者をつくる

(今日の安心感、
もしかして信者の第二歩なのかもしれない)

タダシさんは、
営業マンとしての成長をまたひとつ実感した。

この日のタダシさんはまだ知らない

今日の安心感を渡した瞬間が、
医局との距離をさらに縮める大きな一歩だったことを。

そして、
後にミクさんと出会い、
「決定権は私」という価値観へつながっていく
伏線になっていることを。

物語は、まだまだ続く。

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