ミクには、夕方になると、つい言ってしまう言葉がある。
「早くお風呂入りなさい!」
その瞬間、
ケン(5)はソファに沈み、
さおり(3)は床に転がり、
まるで動かない選手権が始まる。
長女のゆき(7)は、そんな二人を見てため息をつく。
「また、始まったね」
数え方プリントがヒントになった日
ある日、ランドセルから出てきたプリントがヒントになった。
授業で習った「ものの数え方」。
犬は1ぴき、うさぎは1わ、電車は1りょう。
さおりが笑いながら言った。
「ねえママ、さおりね、うまを1ちゃく2ちゃくって言ったら、みんなにわらわれたんよ」
ケンも横から口を挟む。
「さおり、それ競馬の順位じゃん」
その瞬間、ミクの中でスイッチが入った。
命令じゃなくて、子ども自身に決めさせたらどうなるんだろう?
「ゆき、ケン、さおり。あと何分でお風呂入れそう?」
- ゆきは5分、
- ケンは3分、
- さおりは2分
と宣言。
タイマーが鳴ると、三人は競争する馬みたいに洗面所へダッシュ。
ミクは思わずつぶやいた。
「自分で決めると、動くんだね」
「何回言わせるの!」を飲み込んだ日
翌日も三人は遊びに夢中。
言いかけた言葉を飲み込んで、ミクはこう言い換えた。
「今の遊び、どこまでやったら終われる?」
- ゆきは「このページまで読んだら」。
- ケンは「電車が駅に着いたら」。
- さおりは「うさぎの耳がぴょんってなったら」。
終わりを自分で決めると、三人はちゃんと区切りをつけてミクのところへ来る。
子どもって、終わりの見通しがあると動けるんだなぁ。
「まだ入ってないの?」の焦りを変えたら
夜になると、また言いそうになる。
「まだ入ってないの?」
でも言い換えた。
「もう脱げてるじゃん。あと一歩だね」
その一言で、三人は照れながら立ち上がり、すんなりお風呂へ。
湯船でさおりがぽつり。
「さおり、前はママに怒られてばっかりだったよ」
胸がぎゅっとなる。
さおりの口調は、昔の自分そのままだった。
「さおり、ごめんね。ママ、変わりたいんよ」
ケンが、ぷかぷか浮かびながら言う。
「今日の言い方は、合格じゃね」
ゆきも笑いながらうなずく。
ミクは涙が出そうになった。
「3人ぶん声かけてるだけで、満点なんだよね」
「遅い!」をやめてみたら
週末の夜。
また言いそうになる。
「もう、遅いよ!」
でも、深呼吸して言い換えた。
「お風呂のあと、何して遊ぶ?」
- ゆきは「なぞなぞ!」
- ケンは「しりとり大会!」
- さおりは「数え方クイズ!」
楽しみができると、三人はすぐにお風呂へ向かう。
その夜は布団の上で「数え方クイズ大会」。
「ネコはどう数える?」
「1ぴき2ひき!」
笑いながら、ミクは思った。
声かけを変えるだけで、家の空気ってこんなに軽くなるんだ。
朝の戦いも、ちょっとだけ楽しくなる
ある朝。
- ケンは靴下を手にはめて遊び、
- さおりは前髪の角度を研究し、
- ゆきは鏡の前で制服の襟を整えている。
言いかけた「早くしなさい!」を飲み込んで、
「あと何分で出発できそう?」
- ゆきは7分、
- ケンは5分、
- さおりは3分。
タイマーが鳴ると、三人は玄関へダッシュ。
自分で決めると、ちゃんと動く。
ケンのポケットジョークが救ってくれる
登校前、ケンが突然言う。
「ママは1にん2にん!」
さおりがすかさず、
「1かあちゃん2かあちゃんじゃろ!」
ゆきは吹き出す。
ケンは続けて、
「じゃあ、ママは1えらい、2えらいで数えるんよ」
胸がじんわり温かくなる。
子どもって、親を励ます天才だ。
ミク自身の声かけも変わり始めた
夕方、洗濯物をたたみながら思い出す。
昔はいつも自分を責めていた。
「私の言い方が悪いんだ」
「ちゃんとできないのは私のせいだ」
でも今は違う。
「3人ぶん声かけてるだけで、合格」
そう思えるようになった。
「今日もよくやったね、ミク」
そう自分に言うと、肩の力がふっと抜けた。
夜のお風呂ミッションはゲーム化へ
さおりが床にぺたんと座り込む。
ミクは言い換える。
「もうズボン脱げてるじゃん。あと一歩だね」
照れながら立ち上がる三人。
「お風呂のあと、何して遊ぶ?」
「数え方クイズ大会!」
浴室へ走る足音が、家の中を明るくする。
湯船でミクは思う。
変わったのは子どもだけじゃない。
いちばん変わったのは、私の心だ。
怒る回数が減り、責める言葉が減り、
そのぶん、笑う時間が増えた。
「今日も3人回した。これだけで満点だね」
ミクはそっとつぶやいた。
まとめ
声かけを変えるだけで、
子どもが動きやすくなるだけじゃなく、
親の心まで軽くなる。
ミクの家では、今日も
「あと何分でできそう?」
「終わったら教えてね」
「お風呂のあと何して遊ぶ?」
そんな言葉が、家族の空気をふわっと優しくしている。




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