広島駅前徒歩8分。午後のサンタ第2工房では、木の粉がふわっと舞い、作業台の上では積み木の試作品が乾燥中だった。タダシさんが、仕上げ用の紙やすりを片付けながら言った。
これまでの苦労
「ミクさん、以前から気になっていたんですが、ここまで工房を続けてこられるまで、いろいろ大変だったんじゃないですか?」
ミクさんは、少し笑って椅子に腰を下ろした。
「まあ、そうね。せっかくだから、ちょっと話しましょうか。タダシさんも、うちの歴史を知っておいたほうがいいでしょうし」
🪵 昭和の材木店
「私ね、もともとは夫の家業の材木店で経理をしていたのよ。実権を握っていたのは義父で、まあ絵に描いたような昭和の男だったわ」
ミクさんは、少し肩をすくめた。
「店は一般客お断りみたいな雰囲気でね。ミクさん、帳簿より杉の良さをわかってもらえますかなんて言われて」
タダシさんは苦笑した。
「それはなかなか強いですね」
「でしょ?私も、木でお腹は膨らみませんよって返してたわ。毎日そんな感じ」
🎁 丸山さんのガラガラ
「そんなある日、仕入れ先の職人さん――丸山さんが、ひょいっと木のガラガラを渡してくれたの。
子どもが生まれたんだろ。持っていけって」
ミクさんは、工房の棚にある古いガラガラを指さした。
「これね。驚くほど滑らかで、振るとコトコトって、心臓みたいな音がするのよ。長女、長男、次女まで受け継いで、うちの子育ての真ん中に、ずっとあったわ」
タダシさんは、ガラガラをそっと手に取った。
「本当にいい音ですね」
🧸 材木店をおもちゃ屋に
「それで思ったの。こんな素敵なものを作れる職人さんを、作って終わりの世界に閉じ込めておくのはもったいないって」
ミクさんは、当時を思い出して笑った。
「材木店の入り口に丸川さんのおもちゃを並べ始めたのよ。義父が、おや?おもちゃかって言うから、
ディスプレイですよ、おしゃれなって煙に巻いてね」
タダシさんは吹き出しそうになった。
「ミクさんらしいですね」
🛠 独立
「2012年に丸山さんが引退することになって。このおもちゃの灯を消したくないって思って、独立したの。店名はサンタ第2工房。子どもたちに夢を届ける場所って意味よ」
「その後、法人化して、賞もいくつかいただいて、ふるさと納税の返礼品にも選ばれたわね」
タダシさんは感心したようにうなずいた。
「すごいですね。本当に一歩ずつ積み上げてこられたんですね」
🔧 クセ強めの職人さんたち
「工房を支えてくれているのは、腕はいいけど口が悪い職人さんたちよ。田中さんとか吉田さんとかね。70代後半で、まあ、クセが強いの」
ミクさんは苦笑した。
「寸法間違えたかな?って言うときは、だいたい大事故なのよ。積み木箱のクリアランス1mmを見落として、100個全部入らないとかね」
タダシさんは思わず、顔をしかめた。
「それは派手ですね」
「でしょ?でも私は、大丈夫、これはこれで味がありますからって、フォローしてたわ。子育てで鍛えられた処世術ね」
🚚 支えてくれた人たち
「仕入れ先の戸田さん、配送の佐山さんいろんな人に助けてもらって、ここまで来たのよ」
ミクさんは少し遠くを見るように言った。
「一方で、材木店のほうは義父が退いたあと、夫が継いだんだけど、まあ優柔不断でね。
銀行からの電話に怯える日々だったわ」
タダシさんは静かにうなずいた。
「それは大変でしたね」
「私は、仕事に遅れるからって言って、工房に来てたけどね。そのころは木育の活動にも力を入れていて、里山で間伐材を見ながら佐山さんに口出ししてたわ」
「ミクさん、わかったから、まず運ばせてって、よく言われたわね」
🌲 サンタ第2工房のいま
ミクさんは、作業台の上の木片をそっと並べた。
「まあ、いろいろあったけど、こうして工房が続いているのは、支えてくれた人たちのおかげよ。そして今は、タダシさんにも助けてもらってるわけだし」
タダシさんは、少し照れたように笑った。
「いえ、私こそミクさんのお話を聞いて、ますます頑張らないとと思いました」
工房には、木の香りと、二人の穏やかな空気が静かに広がっていた。





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