広島駅前徒歩8分。午後のサンタ第2工房では、木の粉がふわっと舞い、応接テーブルには新作の江戸駒のデザイン画が広げられていた。
職人とAI
タダシさんが、図面を見ながら言った。
「ミクさん、この曲線すごく綺麗ですね。でも、加工は大変そうです」
ミクさんは、少し笑った。
「そうなのよ。これね、昔も同じようなことで大騒ぎしたことがあってね。ちょっと話しましょうか。タダシさんも、うちの職人文化を知っておいたほうがいいと思うし」
タダシさんは椅子を引き寄せた。
🪵 偏屈職人・田中さんとのバトル
「当時ね、70代後半の田中さんに、このデザインを見せたら、開口一番こう言われたのよ。ミクさん、無理だ。こんな細い曲線、木の性質を分かってねえ素人の考えだって。」
タダシさんは苦笑した。
「強いですね」
「でしょ?でも私は、これが今、ママたちの間でエモい形なんですよって返したの。そしたら、エモいだかイモいだか知らねえって。横で聞いていた吉田さんは感心してくれたけど、加工方法は思いつかない。そこで私は、棚の影に隠れてスマホを取り出したのよ」
📱 AIにこっそり相談
「ねえAI、この曲線を古い旋盤で削るにはどう刃を当てればいい?木材はサクラって聞いたら、すぐ答えが返ってきてね」
サクラ材の粘りを考慮し、45度の角度から低速で。
治具を補助的に使用することを推奨します。
「それを自分の直感ってことにして、田中さんに提案したのよね。治具をこう当てて、低速で45度くらいで削るのはどうです?って。」
そしたら田中さんは、そんなやり方聞いたことねえと文句を言いながらも、職人の性で手を動かし始めた。
そして
「ん?お?削れるな、これ」
タダシさんは思わず笑った。
「田中さん、かわいいですね」
「そうなのよ。吉田さんなんて、ミクさんは木と会話してきたみたいだって言ってくれてね。実際はAIと会話してたんだけど」
🧩 AIは販売ルートまで相談相手
「そのころから、私はAIをデジタル相棒として使ってたのよ。販売ルートも相談してね」
「このおもちゃはどのサイトで売ればいい?」
Instagramでの発信と並行して、広島市内のセレクトショップへの委託が最適です。
「そんな裏側を知らない夫は、家で古い帳簿を抱えて待っててね」
「うちの木材、どこかで高く買ってもらえる方法ないかなぁ?」
「どんな魔法使っても無理よ。地道に商売するしかないわよ」
タダシさんは少し苦笑した。
「ミクさん、かなり冷静ですね」
「まあ、経理やってたからね」
🪓 材木店の落日と、義父の言葉
「義父が引退して夫が社長になったとき、肩が震えててね。それが材木店の落日の始まりだったのかもしれないわ」
義父は数年後に亡くなった。病室で、私が作った木製パズルをずっと撫でていたらしい。
「あんたは、自分の木(事業)をしっかり見極めるんだよ」
「それが義父の最後の言葉だったの」
タダシさんは静かにうなずいた。
💸 最悪の予言と、会社の崩壊
「義父の予言は、最悪の形で当たったのよ。夫の優柔不断につけ込んで、長年信じていた社員が資金を持ち逃げしたの」
「どうしよう、もう土地を売るしかない」
「私は経理として冷静に判断したわ。会社を縮小して不動産を整理するしかないって」
材木店の広い敷地は切り売りされ、住宅地になっていった。
「幸いだったのは、私がサンタ第2工房を別法人にしていたこと。仕入れ先も戸田さんの会社に変えていたから、火の粉は飛んでこなかったのよ」
🔧 それでも工房は前に進む
「材木店が小さくなる一方で、工房は活気に満ちていたわ。田中さんがまた失敗しても」
「ミクさん、ごめんよ。一生かかって償いするから」
「私は、大丈夫、その端材でキーホルダー作れるからって言ってね。実際はAIのアドバイスなんだけど」
タダシさんは笑った。
「ミクさん、強いですね」
「まあね。でも、義父がいなくなった寂しさはゼロじゃないわよ」
ミクさんは、窓の外の更地を見つめた。
「でも、私は自分の足で立ってる実感があるの。だから次のデザインも、また攻めていくつもりよ」
工房には、木の香りと、ミクさんの前向きな気配が静かに満ちていた。





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