サンタ第2工房の午後は、
木の香りと静けさがゆっくり混ざり合う時間だった。
タダシは、昨日ミクが見せたさみしさを胸に、
今日も工房へ向かっていた。
扉を開けると、
ミクは作業台の前で、ひとり木片を並べていた。
昨日よりも少しだけ集中しているように見えたが、
その背中にはまだ、静かな孤独の影があった。
「こんにちは、タダシさん」
ミクは、木片を磨く手を止めずに言った。
その声は、昨日より少しだけ柔らかかった。
ミクの「頼みたいけど迷っている」気配
タダシが近づくと、
ミクは木片をひとつ手に取り、
タダシの方へそっと差し出した。
「タダシさん
こういうのって、できますか?」
その言葉は、
頼みごとというより、
試すでもなく、
期待でもなく
どこか 不安と信頼が混ざった声 だった。
タダシは木片を受け取りながら言った。
「やってみます。
どうしたらいいですか?」
ミクは、少しだけ目を伏せた。
「この形
子どもが持ちやすいように、角を丸くしたいんです。
でも、私ひとりだと時間がかかっちゃって」
その言葉は、
ミクが初めて見せた弱さではない頼り方だった。
タダシのぎこちない挑戦
タダシは紙やすりを手に取り、
角をそっと削り始めた。
しかし
削りすぎてしまった。
「あっ」
ミクが気づいて、
少しだけ眉を寄せた。
「そこ、削りすぎると持ちにくくなるんです」
タダシは慌てて言った。
「すみません!」
ミクは、ふっと笑った。
「いいよいいよ。
タダシさん、やろうとしてくれたのが嬉しいから」
その笑顔は、
昨日より少しだけあたたかかった。
ミクの芸術家の眼
ミクは、タダシが削った木片を手に取り、
指先で角をなぞった。
「ここね
子どもが持つと、こうやって指が当たるんです」
ミクは自分の指を木片に添え、
ゆっくりと動かした。
その動きは、
まるで木と会話しているようだった。
「だから、この角度で
このくらいの丸みがちょうどいいんです」
タダシは息をのんだ。
(ミクさんは、木の形を感覚で理解しているんだ)
芸術家の眼は、
ただ美しさを見るだけではなく、
使う人の未来まで見ていた。
二人の距離が少しだけ近づいた瞬間
ミクは、タダシに木片を返しながら言った。
「タダシさん
また手伝ってくれますか?」
その声は、
昨日よりもずっと柔らかく、
どこか安心を含んでいた。
タダシは迷いなく答えた。
「もちろんです。
ミクさんの作りたいもの、手伝わせてください」
ミクは、ゆっくりとうなずいた。
「ありがとう。
本当に、ありがとう」
その笑顔は、
工房の光よりもやさしく、
タダシの胸に深く沈んだ。
タダシの胸に落ちたもの
タダシは思った。
ミクさんは、初めて仕事としての頼みごとをしてくれた。
それは、信頼の始まりだった。
二人の距離は、確かにまたひとつ縮まった。
その日、工房を出るとき、
タダシの胸の奥は、
昨日より少しだけ温かかった。


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