第5話 かわいいの魔法が落ちる瞬間

迷ってもいい
サンタ第2工房関係者の抱負…
木工作家さん
小物作家
次は、かわいい
ブランコを作って
みますね。
木工職人さん
木工職人
問題は、四角い積み木を
どうやって
かわいくするか、だ。

サンタ第2工房の午後は、
光の粒がゆっくり舞うような静けさに包まれていた。
タダシは、昨日リョウマくんが見せた無邪気な笑顔を思い出しながら、
今日も工房へ向かっていた。

扉を開けると、
ミクはひとりで木片を磨いていた。
昨日よりも少しだけ集中しているように見えたが、
その背中には、まだ静かな孤独が残っていた。

「こんにちは、タダシさん」

ミクは、木片を光にかざしながら言った。
その声は、昨日よりも柔らかかった。

ミクのかわいいは評価ではない

タダシが作業台の横に立つと、
ミクは木片をひとつ手に取り、
指先で角をなぞった。

「タダシさん、これ……
 昨日の続き、見てもいいですか?」

タダシは、少し緊張しながら木片を差し出した。

ミクは、ゆっくりと木片を手に取り、
光にかざし、
角を指でなぞり、
重さを確かめた。

そして
ふっと微笑んだ。

「かわいい」

その一言は、
木の粉よりも軽く、
しかしタダシの胸に深く落ちた。

タダシは思った。

(ミクさんのかわいいは、ただの評価じゃない)

それは、
作品の中にある心を見つけたときにだけ出る言葉だった。

ミクのかわいい哲学

ミクは続けた。

「タダシさん、これね……
 なんか、やさしい形してる」

タダシは照れくさくて、
どこを見ればいいか分からなくなった。

「そんな……
 ただ、がんばって作っただけで」

ミクは首を横に振った。

「違うよ。
 がんばっただけじゃ、こういう形にはならない。
 タダシさんのやさしさが出てる」

その言葉は、
タダシの胸の奥にある、
誰にも見せたことのない場所に触れた。

タダシは、
肥溜めに落ちたことも、
土手を燃やしたことも、
英語が上達しなかったことも、
植物を枯らすことも、
全部恥ずかしいと思っていた。

でも今、
ミクさんの言葉がそれらを包み込んだ。

不器用でも、やさしさはある。

かわいいが落ちる瞬間

ミクは、タダシの作った木片を光にかざしながら言った。

「かわいいってね、
 形じゃなくて、心なんですよ」

その言葉は、
工房の静けさよりも深く、
タダシの胸に染み込んだ。

タダシは思った。

(ミクさんは、木の形の奥にある人の心を見ているんだ)

その瞬間、
タダシの胸の奥が、
ほんのり温かくなった。

二人の距離がまた少し縮まった午後

ミクは、木片をそっと置きながら言った。

「タダシさん……
 また作ってみてくださいね。
 タダシさんのかわいい、もっと見たいです」

タダシは、胸が熱くなるのを感じた。

「はい。
 また作ります」

ミクは、ふっと笑った。

「楽しみにしてます」

その笑顔は、
昨日よりも少しだけ柔らかく、
そして少しだけあたたかかった。

タダシの胸に落ちたもの

タダシは思った。

ミクのかわいいは魔法だ。
その魔法は、木にも、人にも、
 そしてタダシにも、そっと降り積もる。

その日、工房を出るとき、
タダシの胸の奥は、
昨日より少しだけ温かかった。

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