ミクが「芸術家になりたい」と語った翌日。
サンタ第2工房の午後は、木の香りと静かな光がゆっくり混ざり合っていた。
タダシが扉を開けると、
ミクは木片を並べながら、どこか遠くを見るような目をしていた。
「こんにちは、タダシさん」
その声は、物語の始まりを予感させる響きだった。
ミクが語り始めた森の精霊と契約した場所の話
しばらく作業をしていると、
ミクは木片を置き、胸の前で手をぎゅっと握りしめた。
「タダシさん
聞いてほしい物語があるんです」
タダシは息をのんだ。
ミクは続けた。
「私たちが使っている木はね
森の精霊と契約した場所から来ているんです」
タダシは目を見開いた。
(森の妖精と?契約?)
ミクは静かに語り始めた。
その森は、人と精霊が約束を交わした場所だった
その森は、
風が歌い、光が踊り、
木々が静かに呼吸する不思議な場所だった。
昔、人々はその森の精霊と約束を交わした。
「木を使うときは、
木の命を最後まで大切にします」
精霊たちはうなずき、
森の木々を人に託すことを許した。
それ以来、
その森は契約の森と呼ばれるようになった。
嵐の夜、一本の木が倒れた
ある嵐の夜、
契約の森の奥で一本の木が倒れた。
その木は長い年月を生き、
鳥の家になり、
風の歌を覚え、
森の仲間たちに愛されていた。
精霊たちは静かに木を囲んだ。
「この木はまだ終わりじゃない。
次の命へつなげよう」
精霊たちは木を旅に出した
精霊たちがそっと触れると、
倒れた木は光の粒となって空へ舞い上がり、
遠くの街へ旅をした。
旅の先は
サンタ第2工房だった。
工房で、木は新しい命を得る
ミクはその木をそっと手に取り、
角を丸くし、形を整え、
やさしい色をつけた。
木は思った。
「この人は、私のことを分かってくれる」
ミクの指先は、
森の精霊たちの声を聞いているようだった。
子どもの手に渡り、木は再び生き始める
完成した積み木は、
子どもの手に渡った。
子どもは笑った。
積み木は喜んだ。
森の精霊たちは遠くの森で微笑んだ。
「この木はまた生きている。
形は変わっても、命は続いている」
ミクの目は、物語を語りながら輝いていた
物語を語り終えたミクは、
少し照れたように言った。
「タダシさん
こんな物語、どうですか?」
タダシは胸が熱くなった。
「すごくいいです。
ミクさんの作品にぴったりです。
木の命を大切にするミクさんらしい物語です」
ミクは胸の前で手をぎゅっと握りしめた。
「よかった
タダシさんに聞いてもらいたかったんです」
その声は、
昨日よりも少しだけあたたかかった。
二人の距離がまたひとつ近づいた午後
タダシは思った。
ミクさんは職人を越えて物語を作る人になろうとしている。
木の命を感じ、作品に心を宿し、物語を紡ぐ。
それは芸術家の第一歩だった。
その日工房を出るとき、
タダシの胸の奥は、
契約の森の精霊たちの光のように静かに輝いていた。


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