サンタ第2工房の午後は、
木の香りと静かな光がゆっくり混ざり合う時間だった。
タダシは、昨日ミクが見せてくれた
「かわいくなるまで磨く」という職人魂を胸に、
今日も工房へ向かっていた。
しかし、この日は、
タダシのある性質が静かに顔を出す日だった。
タダシの「やらかし」は突然やってくる
扉を開けると、
ミクは作業台の前で木片を並べていた。
「こんにちは、タダシさん」
その声は、いつも通り柔らかかった。
タダシは、昨日ミクに頼まれた
あるものを持ってきたはずだった。
はずだった。
「ミクさん、昨日の、あれ、持ってきました!」
そう言って、バッグを開けた。
しかし
ない。
どこを探しても、
どれだけバッグをひっくり返しても、
昨日ミクさんに頼まれた木の型紙が見つからない。
タダシは固まった。
「あれ?」
ミクは、木片を置き、
タダシの様子を見つめた。
「タダシさん、どうしました?」
タダシは、情けない声で言った。
「昨日の型紙、忘れました!」
工房の空気が、
木の粉よりも細かく震えた。
ミクの静かな笑いが落ちる
ミクは、ほんの一瞬だけ目を丸くした。
そして
ふっと笑った。
「タダシさん、
かわいいですね」
タダシは固まった。
「えっ?かわいいんですか、これ?」
ミクは、笑いをこらえながら言った。
「はい。
タダシさんって、がんばるんですけど
時々、すごく大事なものを忘れるんですよね」
タダシは、恥ずかしさと情けなさで顔が熱くなった。
「すみません。本当にすみません。」
ミクは首を横に振った。
「いいですよ。
怒ってないです。
むしろ、ちょっと安心しました」
タダシは驚いた。
「安心、ですか?」
ミクは、静かに笑った。
「はい。
タダシさん、完璧じゃないんだって分かって。
そのほうが、私には話しやすいです」
その言葉は、
タダシの胸の奥に静かに落ちた。
ミクの境界線がやさしくゆるむ
ミクは、作業台の端に座りながら言った。
「私ね、
完璧な人って、ちょっと怖いんです。
近づきすぎると、傷つけられそうで」
タダシは静かに聞いた。
「でも、タダシさんみたいに
忘れたり、抜けたり、
ちょっと不器用な人は
安心するんです」
タダシは、胸がじんわり温かくなった。
(ミクさんは、私の物忘れを欠点として見ていないんだ)
ミクは続けた。
「だからね、
忘れ物くらい、いいんですよ。
かわいいから」
タダシは、照れながら笑った。
二人の距離がまた少し縮まった午後
ミクは、木片を手に取りながら言った。
「じゃあ、今日は型紙なしでできる作業をしましょう。
タダシさんが忘れた分、私がフォローしますね」
タダシは深くうなずいた。
「はい、本当にすみません。
でも、ありがとうございます」
ミクは、ふっと笑った。
「いいんですよ。
タダシさんのかわいい失敗、嫌いじゃないです」
その笑顔は、
昨日よりも少しだけ柔らかく、
そして少しだけあたたかかった。
その日、工房を出るとき、
タダシの胸の奥は、
恥ずかしさと嬉しさが混ざったような温度だった。
ミクの静かな笑いは、
タダシの物忘れを責めるのではなく、
二人の距離をまた少し近づけた。


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