広島駅前徒歩8分。
サンタ第2工房の朝は、木の香りと、まだ少し眠そうなミクさんの足音から始まる。
タダシさんは、いつものように作業台の整理をしていた。
「おはようございます、ミクさん」
「おはよう、タダシさん。今日も早いわね」
その言葉は、以前より少し柔らかい。
🪵ミクさんは頼ることが苦手だった
ミクさんは、基本的に誰かに頼るのが苦手だ。
材木店時代から、
「自分でやるほうが早い」
「人に迷惑をかけたくない」
という気質が染みついている。
だから、タダシさんが工房に来るようになった当初も、
仕事を任せることに慎重だった。
しかし――
ある日、ミクさんが重い木材を運ぼうとして、
腰を少し痛めたことがあった。
「ミクさん、それは私が持ちますよ」
「え?いいのよ、これくらい」
「いえ、危ないです。任せてください」
そのときのタダシさんの声が、
驚くほど落ち着いていて、
ミクさんは思わず手を離した。
(あ、この人、任せてもいいんだ)
その瞬間から、二人の距離は少し変わった。
📞電話が二人の距離を縮めた

タダシさんが毎週、栗原市の実家に帰るようになってから、
ミクさんは時々電話をかけるようになった。
「タダシさん、今日の工房ね、田中さんがまた寸法間違えたのよ」
「そうなんですか。大変でしたね」
「ええ。でも、あなたがいないと静かすぎて。
なんだか変な感じなのよね」
その言葉は、
寂しいとまでは言わないけれど、
それに近い温度を持っていた。
タダシさんは、電話越しに少し照れながら答えた。
「明日には戻りますから。心配しないでください」
🧹みわさんは気づいている
みわさんは、工房の掃除をしながらぽつりと言った。
「ミクさん、あの人、最近よく来るわね」
「そうね。仕事が丁寧で助かってるのよ」
「ふーん。まあ、悪くはないわね」
みわさんは、ミクさんの表情をちらっと見た。
(ミク、ちょっと嬉しそうじゃない?)
でも、何も言わなかった。
🔧距離の取り方がうまい
タダシさんは、ミクさんに対して必要以上に踏み込まない。
- 仕事の相談は丁寧に
- プライベートには踏み込まない
- でも、困っているときは自然に手を差し伸べる
その距離感が、ミクさんには心地よかった。
ある日、ミクさんが新しいデザインの試作品を見せたとき。
「タダシさん、これどう思う?」
「すごくいいと思います。ミクさんらしいです」
「らしいって、どういう意味?」
「木の使い方が、優しいんです。
子どもが触ったときのことをちゃんと考えてる」
ミクさんは、少しだけ照れた。
「ありがとう」
🌙安心を感じる
閉店後。
ミクさんは、工房の片隅で帳簿を閉じながら言った。
「タダシさん、あなたが来てくれるようになってから
工房が少し、安心できる場所になった気がするのよ」
タダシさんは、少し驚いたように目を上げた。
「そう感じていただけるなら、嬉しいです」
「ええ。ほんとにね」
その言葉は、
仕事の話でも、感謝でもなく、
信頼そのものだった。
🌲二人の関係は、ゆっくり深まっていく
ミクさんは、誰かに頼るのが苦手。
タダシさんは、必要以上に踏み込まない。
だからこそ、二人の距離はゆっくり、静かに深まっていく。
派手な出来事はない。
ドラマチックな展開もない。
でも――
工房の空気が少し柔らかくなる。
ミクさんの表情が少し穏やかになる。
タダシさんの声が少し優しくなる。
そんな変化が、確かにそこにあった。
サンタ第2工房は今日も稼働中。
木の香りと、二人の静かな信頼が、
広島の街にふわっと漂っている。





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