「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングでノートパソコンを開き、何やら難しい顔でキーボードを叩いていた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「知り合いの会社の社長さんからホームページの作り方やブログの書き方を教えてほしいって言われて、弟子入りさせてくれって頼まれたんでしょ?一体何を教えてあげるつもりなの?」
「ふふふ、ミクよ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、自信満々に胸を張った。
「実はね、職人のように自分の時間を切り売りしてバグと戦うだけの日々から脱却したかったのだよ。バケツで水を運ぶのではなく、畑に自動で水を行き渡らせる水路を造る、ブログという名の不労所得のシステムをね!」
「へぇ、水路ねぇ。で、その壮大な水路から、今まで我が家にいくら引き込まれたのかしら?」
「ぐっ」
核心を突く鋭い一撃に、私の言葉が詰まる。
「そ、そこはほら!最初の頃は日記から始めて、アメブロ、WordPress、Blogger、Jimdo、BASEと迷走を重ねたからね。それにお金を儲けたいという不純な動機で始めたものの、広告をペタペタ貼りすぎたら自分のブログが広告だらけの読みにくいゴチャゴチャ屋敷になっちゃって、結局アドセンス広告を全部消したという過去があってだな」
「完全に迷走してるじゃないの。それで弟子入りしたいって言ってきた社長さんに何を教えるのよ」
ミクが呆れ顔でクスッと笑った。だが、私は気を取り直して人差し指をスッと立てた。
「教えるべき本質は3つあるのだよ!①自分でやってみる、②ネットで自分で調べる、③お金をかけない!なぜなら、お金をかけた豪華なアピール例えばスイスの山頂の景色や高級ホテルの料理なんていうのはお金の魅力を伝えているだけで、その人自身の価値ではないからだ!」
「ほう、なかなか良いこと言うじゃない」
「だろ?だから家族にせがまれて貧乏旅行で行ったスキー場の景色みたいな、お金という装飾を全部取り除いた時に残るその人自身の魅力を伝えることが大切なのだよ!」
私が熱っぽく語ると、ミクはうんうんと頷きながら、私のノートパソコンの画面を覗き込んだ。
「なるほどねぇ。お金やブランドを取り去った時に何が残るかを知るのがブログなのね。じゃあ、お父さんからお金やWordPressの知識を取り去ったら、何が残るのかしら?」
「ふっ。それはもちろん、神様が見えない、ちょっとお茶目な普通の私だな」
「あら、格好いいこと言っちゃって」
ミクはクスリと笑うと、私の肩をぽんと叩いた。
「じゃあ、そこの普通の私さん。高額なコンサル料だけ払わされて放置された悲しい過去を繰り返さないように、その社長さんには優しく伴走して差し上げなさいね。あと、水路からお給料が入る前に、明日の朝ゴミを出すっていう手作業を忘れないでちょうだい」
「御意」
ブログを通してお金儲けを目指したはずが、気づけば自分自身の生き方や価値観と向き合うことになっていた。何者でもない自分を受け入れ、誰かに寄り添って歩むこと。それこそが、神様が私に用意してくれた一番の「お恵み」なのかもしれない。
我が家の水路はまだ静かだが、リビングには今日もおだやかな笑い声が満ちている。





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