「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「ボブ・カントン」「奇跡のヒーリング」「自分の中に潜む3匹の虫」「腎臓の数値が良くなった!」と熱烈なメモを真面目顔で書き連ねていた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきから、自分に奇跡が起こった!とか、不信仰は自分を不適格だと思う心から来る!って、一人で何の奇跡の体験談をまとめているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、奇跡を目撃した伝道者のような眼差しで語り始めた。
「聖霊の働きと癒しの賜物について思索していたのだよ!ボブ・カントンさんをはじめ、世界中で奇跡を起こすパワーミニストリーの方々の集会に参加してね、私自身も心と体のわだかまりが洗い流される体験をしたのだ!自分なんかが奇跡を受け取るなんて、という思い込みこそがブレーキなのだよ。すべては神様に身をゆだねれば、自ずと良い方向へ導かれるのだ!」
私が熱っぽく、ゆだねる信仰と、奇跡の体験を語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。頑張る必要はない、すべてゆだねればいいねぇ」
「うむ!自分が必死になって抱え込む必要など何一つないのだよ!」
「じゃあ、お父さん。さっき明日は自治会のゴミ拾い掃除だけど、俺の心は神様に委ねられているから、明日の朝は布団の中で神の恵み(二度寝)を体験するって言ってたのは何かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、地域の回覧板を指さした。
「自分は頑張らなくていいって言葉を都合よく使って、朝7時からの町内清掃をサボろうとしていたでしょう。神様にゆだねる前に、自分の任された自治会役員の役割をしっかり果たしたらどうなの?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは地域の落ち葉清掃という奉仕を通じて神の愛を実践する試練であって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「自分の中に居座る3匹の虫を追い払いたいなら、まずはその面倒なことから逃げようとする怠け虫から神様に取り去ってもらいなさいな。明日の朝は6時半起きよ」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに怠け虫を悔い改め、明朝は目覚ましをセットして一番乗りで竹ほうきを握りしめてまいります」
不思議な奇跡の力に深く感謝しつつも、己の日常のズルさをあっさり見抜かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と地域の清掃活動を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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