「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「架空の猫の身代わり」「大切な人の死と永遠」「小言ばかりの愛おしい存在」「神様の交通整理と天国の花嫁」と、物語の創作と身近な人々への切ない愛着が混ざり合ったメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をけてきた。
「さっきから、僕が架空の猫になって身代わりで死んでもいいのだ!とか神様は弱者を一番先頭に立たせるのだ!って、一人で何の命と永遠サミットを開いているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、生と死の深遠な境界を見つめる物語作家かのような眼差しで語り始めた。
「大切な存在の死と、その後に残る愛しさについて思索していたのだよ!いなくなって初めて、うるさかった小言や不器用な料理がかけがえのない思い出だと気づく。人は誰しもいつか旅立つが、一生懸命に生きた弱い者こそ神様に祝福され、物語のように温かな記憶として永遠に生き続けるのだよ!」
私が熱っぽく「架空の猫の健気さ」と「失って気づく愛おしさ」について語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。いなくなってから小言やうるさい言動のありがたみに気づくねぇ」
「うむ!どんなに小言が多くても、その人が放つ笑顔や存在そのものが、失ってみて初めて宝物だと分かるのだよ!」
「じゃあ、お父さん。さっきから私が出しっぱなしの靴を片付けなさいって小言を言ったとき、死んだらこの小言も懐かしくなるはずだって遠い目をして、片付けを踏み倒そうとしていたのは誰かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、玄関に脱ぎ散らかされたままの私のスニーカーを指さした。
「命の尊さや大切な人の思い出をノートに熱弁する前に、今、生きている私からのリアルな小言をちゃんと聞いて靴を箱にしまったらどうなの?いなくなった後の思い出に浸る前に、目の前の生活をしっかり整えなさいな」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは小言を言ってくれる妻のありがたみを今まさに噛み締め、噛み締めすぎて動けなくなっていたのであって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの!永遠の愛を語るなら、まずは私が生きているうちに、身の回りの片付けをして私の機嫌を取りなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに己の横着を深く反省し、妻という尊き存在のありがたみを胸に刻みながら、完璧に靴を片付けてまいります」
大切な人たちの存在と命の儚さに思いを馳せつつも、小言を「将来の思い出」にして踏み倒そうとした浅はかさをあっさり見抜かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と大切な日常を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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