「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「神様は空気や風のような存在」「鉛筆キャップから上履き投げ占いへ」「神様の時間を待つもどかしさ」「富士山とダイバーシティ」「一番大切なのはコミュニティと隣人愛」と、少年時代の珍妙なジンクスと深い信仰覚書が混ざり合ったメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきから、上履きを投げて裏が出たら不吉なのだ!とか聖書は新聞と同じニュース解説なのだ!って、一人で何の宗教思想サミットを開いているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、数々の迷信を乗り越えて真理に辿り着いた宗教学者かのような神妙な眼差しで語り始めた。
「神様の存在と人間の成長について思索していたのだよ!幼少期は鉛筆キャップや上履き投げ占いに頼っていた私も、やがてこれは違うと気づき、空気や風のように目に見えない神様のインスピレーションを感じ取るようになったのだ。大切なのは特定のモノを拝むことではなく、神様の時間を気長に待ち、コミュニティの中で隣人を愛することなのだよ!」
私が熱っぽく「上履き占いからの脱却」と「真の隣人愛」について語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。モノに頼る迷信を捨てて、気長に神様の返事を待ち、隣人を愛するねぇ」
「うむ!祈りの返事が遅くても焦らず、周囲の人々と心を通わせることこそが大切なのだよ!」
「じゃあ、お父さん。さっきから私のお気に入りのクッキー、勝手に食べたでしょ!って私が聞いたとき、神様からのインスピレーションが降りてくるまで僕には答えられないって目を泳がせながら返事を引き延ばして、隣人である私を誤魔化そうとしているのは誰かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、ゴミ箱に捨てられたクッキーの個別包装の袋を指さした。
「神様の時間を待つ美徳や隣人愛をノートに熱弁する前に、目の前の妻という一番身近な隣人に素直に謝ったらどうなの?自分の食い意地を隠すために神様の返事待ちを口実にするなんて、上履き占いをしてた頃からちっとも成長してないんじゃないかしら?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは小腹が空いた私に差し出された、神様からの恵みのクッキーだと解釈していたのであって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの!隣人を愛するなら、ごまかさずに反省して、明日新しいクッキーを買ってきなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに己の浅はかな言い逃れを深く懺悔し、明日は妻という尊き隣人のために最高のクッキーを献上してまいります」
少年時代の素朴な迷信と神様の深遠な導きに思いを馳せつつも、クッキーのつまみ食いを「神のインスピレーション」で押し通そうとした不誠実さをあっさり見抜かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と夫婦の絆を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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