「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルで「ゆるしの秘跡の式次第」と書かれた用紙を握りしめ、「神父様に告白するくらいならブログに書いた方がマシか。いや、墓場まで持っていくか」と恐ろしい顔で葛藤していた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきから忌々しい罪をぶちまけるとか墓場まで持っていくとか、物騒な独り言が漏れてるけど、一体なにを悩んでいるの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、神妙な面持ちで深々と溜め息をついた。
「実はね、そろそろカトリックのゆるしの秘跡(告解)を受けに行かねばと思っているのだよ!だが、日頃よく顔を合わせる神父様の前で、己の愚かさや両親にイライラしてしまったいっぱしの信者のふりをしているなんて罪を告白するのは、実にハードルが高くてね。日記に書いて一人で反省して、こっそり行動を改めちゃえばセーフじゃないかという誘惑と戦っていたのだよ!」
私が熱っぽく言い訳を並べ立てると、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。神父様に言うのが恥ずかしいからって、日記でうやむやに誤魔化そうとしてたわけね」
「ぐっ!それは神様と一対一で向き合う前の、人間の弱さゆえの苦悩なのだよ!」
「はいはい。でもお父さん、神父様に告白する前の一番身近な人への反省が抜けてないかしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、私がさっきから「許される時間」「私の準備」とか言い訳を書き連ねていたノートを指さした。
「さっきノートに妻と口をきいていない、悪いのは私ではなく妻の方だと思うがって、チラッと書いてあった気がするんだけど?」
「うぐっ!な、なぜそれを!」
痛いところを突かれ、私は冷や汗を流した。
「神様から許してもらう前に、相手から許してもらうのが先か?なんて哲学的に悩む前に、目の前の私にさっきは素直じゃなくてごめんねって一口言えば済む話じゃないの?神父様の告解部屋に入る前に、我が家のリビングの秘跡を済ませてちょうだい」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに我が身の不徳を恥じ、妻よ、あなたに心からお詫び申し上げます」
「よろしい!自分の口で素直にごめんなさいが言えたじゃない。それなら次の日曜日のゆるしの秘跡も、バッチリ神父様に素直な気持ちを打ち明けられるわね」
妻はクスッと笑うと、空になった湯呑みを指さした。
告解を恐れて逃げ回る自分に苦笑いしつつも、目の前の妻へ素直になることこそが、神様への第一歩なのだと痛感する私。
妻の愛ある「告解の予行演習」に感謝しながら、私はほうじ茶のおかわりを淹れるべく、清々しい気持ちで台所へと前進するのだった。





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