「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「散歩とロザリオの祈り」「人間万事塞翁が馬」「ハワイが年間10cm近づく説」「マリア様への取り次ぎと15の約束」と、キリスト教の壮大な神学とスケールの大きすぎる地理ネタが混ざり合ったメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきから、散歩中に無心でバラの冠を編んでいるのだ!とか何万年後かには歩いてハワイに行ける!って、一人で何の壮大な人生訓サミットを開いているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、人生の酸いも甘いも噛み分けた老熟な哲学者かのような眼差しで語り始めた。
「幸せの定義と神様の時間について思索していたのだよ!幸せとは人生の最後に分かるものであり、まさに人間万事塞翁が馬。焦って結果を求めても意味はない!地理の先生がハワイは1年で10cm近づいているから気長に待てと言っていたように、神様の時間が満ちるのを待つ間、私は散歩しながらロザリオを唱え、他人の幸せや天国の魂のために祈りを捧げているのだよ!」
私が熱っぽく「ロザリオの深遠な意味」と「塞翁が馬の境地」について語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。不幸も幸福も予測できないから安易に喜怒哀楽を出さず、気長に時が満ちるのを待つねぇ」
「うむ!自分のことばかり考えず、無心になって誰かのために祈り、神様のタイミングを待つのが真の静けさなのだよ!」
「じゃあ、お父さん。さっきからあと1時間でセールが終わっちゃう!急がないと売り切れる!ってパソコンの前で大汗をかきながら、ネット通販のタイムセールに必死でしがみついているのは誰かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、画面に「残り時間あと数分!」と赤字で点滅している私のショッピングカートを指さした。
「神様の時間が満ちるのを何万年も気長に待てる大人物が、たった数分のタイムセールに全神経をすり減らして慌てふためいてどうするのよ?塞翁が馬の境地はどこへ行ったのかしら?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは限定クーポンの恵みを享受すべく、神から与えられた限られた時間を最大限に活用していたのであって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの!散歩で無心になって祈るのもいいけれど、まずはタイムセールの誘惑に対して安易に喜ばない塞翁が馬の精神を実践しなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに己の浅ましさを猛省し、購入ボタンを押す手を止めて、静かに心を落ち着かせてまいります」
幸せの真意とロザリオの祈りに思いを馳せつつも、目先のタイムセールに惑わされる凡人ぶりをあっさり見抜かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートとパソコンを閉じ、我が家の平和と財布の平穏を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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