「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「カトリックの葬儀ミサ」「病者の塗油」「緊急洗礼の手順」「11月は死者の月」と、やたらと荘厳で詳細なメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきから死は永遠の命への過ぎ越しなのだ!とか11月はハロウィンであり死者の月!って、一人で何の儀式の手引きを書いているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、教会の長老かのような神妙な眼差しで語り始めた。
「カトリックにおける葬儀ミサの深い意味と手順について思索していたのだよ!キリスト教の葬儀とは悲しみのためだけではなく、天国へ行ったよと皆にお知らせし、復活の信仰を宣言する歓びと希望の場なのだ!臨終の際の手配から司祭との打ち合わせ、献金のマナーに至るまで、残された家族が慌てないよう完璧に整理していたのだよ!」
私が熱っぽく「カトリック葬儀の手順」と「信仰による希望」を語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。残された家族が慌てないように完璧に整理した、ねぇ」
「うむ!いつか必ず訪れる終焉に対し、生前から備えておくことこそが愛と誠実さなのだよ!」
「じゃあ、お父さん。さっきから万が一の時は教会共同墓の手配を頼むぞ!って大層な遺言ノートを作成しているけれど、先月届いていた自動車保険の更新書類を机の隅に放置したまま期限を切らしそうになっているのは誰かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、テーブルの端に埋もれていた保険の払込用紙を指さした。
「遠い将来の葬儀ミサの手順をノートに熱弁する前に、今週末に迫っている現実の保険手続きを済ませたらどうなの?車の保険が切れたまま運転する方が、よっぽど昇天のリスクが高まってヒヤヒヤするわよ?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは期限ギリギリまでリスク管理の重要性を再確認していたのであって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの!天国への旅立ちの心配をする前に、明日の朝一番で保険の更新を済ませて、現実の我が家の安全を守りなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに己の現実逃避を深く悔い改め、明朝は真っ先に保険の手続きを完了させ、安全運転に全力を尽くしてまいります」
カトリックの尊い葬儀の教えと準備の大切さに思いを馳せつつも、目の前の現実的な手続きの放置をあっさり見抜かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と現実の生活を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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