「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「幸せの直行便」「経由地を気にせず希望の星を目指せ」「ハワイへ歩いていくダイナミズム」「人間万事塞翁が馬」と、生きづらさを抱える人へ向けた熱いメッセージと独特なハワイの例えが混ざり合ったメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、ミクが温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきから、病気回復や成績向上は幸せの必要条件ではないのだ!とか飛行機を使わず徒歩でハワイを目指すダイナミックさ!って、一人で何の人生救済サミットを開いているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、傷ついた人々に寄り添う温かな聖者かのような眼差しで語り始めた。
「苦境に立つ人々への幸せの真意について思索していたのだよ!貧富の格差や将来への不安で希望を見失う人が多いが、幸せとは最後になってようやく解かるもの。人間万事塞翁が馬なのだ!成績やカッコ良さという目先の条件に捉われず、自分だけの希望の星を信じて進むことこそが、準備された幸せに辿り着く唯一の道なのだよ!」
私が熱っぽく「希望の星の導き」と「幸せの捉え方」について語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。

「へぇ。目先の条件や形に捉われず、与えられた環境の中で自分なりの幸せを見出すねぇ」
「うむ!どんな状況でも考え方一つで幸せは掴めるし、焦らず時が満ちるのを待つ心の強さが大切なのだよ!」
「じゃあ、お父さん。さっきのことだけど、今の年収と体型じゃあ、カッコイイ裕福な理想の旦那様とは程遠いわねって、私が冗談で言ったとき、それを言うのは野暮だ!徒歩でハワイに行くようなスケールの大きな愛で見守ってくれ!って大慌てで言い訳していたのは誰かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、私がテーブルの端に置いていた「目指せ健診クリア!ダイエット計画」の用紙を指さした。
「条件や形に捉われない美徳をノートに熱弁する前に、まずは目の前の妻からもう少し健康でカッコよくなってほしいって期待されている現実を素直に受け入れたらどうなの?自分の体型改善から逃げる口実に徒歩でハワイを持ち出すのは支離滅裂じゃないかしら?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは目先の数値に一喜一憂せず、塞翁が馬の精神でゆったりと健やかな人生を目指そうという深謀遠慮であって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの!幸せの星を目指すなら、まずは明日の朝から散歩を始めて、ハワイじゃなくて近所の公園まで歩いて体型改善に励みなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに己の現実逃避を深く反省し、明朝は歩いて公園を目指し、妻という尊き存在と共に歩む健康な未来へ向かって一歩を踏み出してまいります」
人生の幸不幸の深遠さと希望の星に思いを馳せつつも、自身の体型への甘えをあっさり見抜かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と明日の健康を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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