「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「無宗教は傲慢?」「ミッションスクールと十字架ピアス」「お神輿は宗教行事」「海外から見た日本のアイデンティティ」と、国際比較と宗教観が入り混じったメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をけてきた。
「さっきから無宗教と胸を張る日本人は正気か!とかお神輿とクリスマスを愛する矛盾!って、一人で何の国際宗教サミットを開いているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、世界を渡り歩く国際ジャーナリストかのような眼差しで語り始めた。
「日本の宗教ごはっと文化と、アイデンティティについて思索していたのだよ!無宗教ですと胸を張る日本人は、海外からは自分の価値観を説明できない傲慢な人と捉えられかねない!だが、ミッションスクールの人気や町内会のお神輿を見れば、日本人も決して無関心なわけではないのだ。押し売りを警戒して心を閉ざしているだけで、神様を否定することは百害あって一利なしなのだよ!」
私が熱っぽく「日本の宗教観の矛盾」と「真のアイデンティティ」について語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。無宗教を気取って心を閉ざし、自分の価値観を説明できないのは傲慢ねぇ」
「うむ!自分の立場や信条をうやむやにして逃げるのは、国際社会では通用しないのだよ!」
「じゃあ、お父さん。さっきから私が今年の家族旅行、どこに行きたい?って何度も聞いているのに、うーん、お母さんの意見に賛成~僕はどこでもいいよ~って自分の意見をうやむやにして責任逃れしている人は誰かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、テーブルの上に開かれたままの旅行パンフレットを指さした。
「日本のアイデンティティや海外からの見え方をノートに熱弁する前に、まずは我が家での自分の価値観をはっきり主張したらどうなの?家族の旅行先一つ自分で提案できない人が無宗教で意見を言わないのは傲慢だなんて言っても、何の説得力もないわよ?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは家族みんなの調和を重んじる、日本伝統の和の精神を発揮していたのであって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの!アイデンティティを語るなら、次の休みにどこに行きたいか、自分の意志でビシッとプレゼンしなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに己の主体性のなさを猛省し、我が家のアイデンティティを確立すべく、最高の旅行プランを練り上げてプレゼンいたします」
日本人の宗教観とアイデンティティの深さに思いを馳せつつも、家庭内での優柔不断さをあっさり見抜かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と家族旅行の行き先を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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