「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルで使徒信条のテキストとノートを広げ、「イエス様の青森渡来説」「相対性理論と時間のゆがみ」「ばくちとしての信仰」と怪しすぎるメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、妻が温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきからとりあえず、だまされたと思って信じてみる!って力強く頷いてるけど、今度は何に騙されようとしてるの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、学者のような、はたまた勝負師のような妙な顔つきで腕を組んだ。
「毎週のミサで唱える使徒信条について思索していたのだよ!処女航海ならぬ、おとめマリアからの誕生や死者の復活など、科学的には信じがたい言葉の連続じゃないか!だがね、大地震の予知も線状降水帯の発生もスパコンで分からない現代科学だ。理屈を超えて一旦、素直に信じてみることこそが大切なのだよ!中学2年の頃、キリストを信じるのは人生のばくちだと日記に書いた私のようにね!」
私が熱っぽく持論を展開すると、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。理屈を超えて素直に信じるねぇ」
「うむ!船に乗ってみて初めて、その船の良さが分かるというものなのだ!」
「じゃあ、お父さん。先週この最新の筋トレグッズを買えば、絶対に1ヶ月で腹筋が割れる!って息巻いてネット注文した、あの謎の腹筋ベルトの効果は素直に信じられているのかしら?」
「ぐっ!な、なぜそれを!」
痛いところを突かれ、私は言葉に詰まる。
「届いた初日に10分使っただけでなんかピリピリして痛いから、科学的に怪しいって言って箱に仕舞い込んだじゃない。使徒信条をだまされたと思って信じる前に、自分が買った腹筋ベルトを素直に信じて使い続けたらどうなの?」
「うぐぐっ!あれは私の腹筋がまだ、からだの復活を果たしていないからで!」
「上手いこと聖書の言葉で誤魔化さないの!科学も信仰も言い訳に使わないで、まずは信じて継続する足元の実践から始めなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに押し入れから腹筋ベルトを引っ張り出し、我が腹筋の復活を信じて装着してまいります」
深遠な信仰の真理を語りつつも、自分の三日坊主ぶりをあっさり見抜かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と健康を取り戻すべく、静かに腹筋ベルトのスイッチを入れるのだった。





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