「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「病院のパトロール経験」「病気の意味=神様のひざカックン」「家族へのありがとう準備」と、独特すぎるメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、ミクが温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきから自分は強いつもりでいるが、弱さに気づくためのひざカックンだって、一人で何の自己分析をしているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、悟りを開いたカウンセラーのような眼差しで語り始めた。
「人が病気や試練に直面する意味について思索していたのだよ!病気とは、己の不遜な強がりをへし折る神様のひざカックンであり、他人の苦しみに気づいて思いやりを寄せるための恵みなのだ!自分の弱さを知ることで、人は周りへの感謝に気づき、その人生はダイヤモンドのような輝きを放つのだよ!」
私が熱っぽく「ひざカックンの真理」と「ダイヤモンドの人生」を語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。病気や試練は自分の弱さに気づき、周りに感謝するための恵みねぇ」
「うむ!人は弱さを知って初めて、本当の思いやりを持てるのだよ!」
「じゃあ、お父さん。先週ちょっと風邪気味で熱が37.2度出たとき、もうダメだ。俺の人生もここまでかもしれない、遺言を書かねばって、毛布にくるまって大騒ぎしながら私にポカリスエットとゼリーをおねだりしていたのは誰かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、薬箱の体温計を指さした。
「弱さに気づいてへりくだるどころか、微熱ひとつで悲劇の主人公になりきって、私を小使いさんみたいにこき使っていたじゃない。ダイヤモンドの輝きを放つ前に、もう少し男らしくどっしり構えられないのかしら?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは自分の命の儚さを噛み締め、妻への感謝を深めるための聖なる試練であって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「ありがとうや、ごめんなさいを伝える準備もいいけれど、まずは大騒ぎして私に看病させたことへのごめんなさいを今、ここで言いなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに大げさすぎた態度を猛省し、先週の至れり尽くせりの看病に心からの感謝と謝罪を表明いたします」
病気と人生の深遠な意味に思いを馳せつつも、己の微熱での情けない大騒ぎをあっさり蒸し返されて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と本当の謙虚さを取り戻すべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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