「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「人は悪魔になれるか?」「イエスの荒野の誘惑」「ちょっぴり悪魔の危険性」と、独特なメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、ミクが温かいほうじ茶を差し出しながら声をけてきた。
「さっきから、自分の中の小さな悪魔が暴れ出しているとか、悪魔から人間には戻れない!って、一人で何の警鐘を鳴らしているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、人類の過ちを憂う道徳家かのような眼差しで語り始めた。
「人が悪魔になり得るかという重大な問いについて思索していたのだよ!イエス様でさえ荒野で悪魔の誘惑を受けたように、人間も油断すると小さな悪戯や欲心からちょっぴり悪魔になってしまうのだ!一度悪魔に身も心も明け渡してしまうと、元の人間に戻るのは非常に難しい!だからこそ、日々の生活でいかに悪魔にならないかが重要なのだよ!」
私が熱っぽく「悪魔化のメカニズム」と「踏みとどまる大切さ」を語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。小さな悪戯や欲心から悪魔になるねぇ」
「うむ!ほんの少しの甘えが本格的な悪魔への第一歩なのだよ!」
「じゃあ、お父さん。昨日、私が楽しみに取っておいた冷蔵庫のプレミアムプリンを一口だけならってこっそり食べて、証拠隠滅のために空の容器をゴミ箱の底に隠していた人は誰かしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、ゴミ箱の奥から発見されたプリンのプラスチックカップを指さした。
「ちょっぴり悪魔どころか、完全に欲心に負けて隠蔽工作まで企てる本格的な悪魔の手口じゃない。荒野の誘惑に耐えたイエス様を見習う前に、目の前のプリンの誘惑に耐えたらどうなの?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれは空腹という荒野に置かれた私に対する、悪魔の試練であって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの!悪魔から人間に戻るのが難しいなら、まずは自分が食べたプリンを明日倍にして買ってきて、人間に戻りなさいな」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに己の浅ましい欲望を悔い改め、明日の会社帰りに高級プリンを2個買い求めて帰宅し、誠意をもって人間復帰を果たします」
悪魔にならぬための教訓に思いを馳せつつも、己のプリン盗み食いという小悪党ぶりをあっさり暴かれて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と冷蔵庫の平和を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。




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