「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「神様がたくさんいる理由=ダイバーシティ」「元はぜんぶ一緒説」「自説を押し付けると戦争になる」「相手も正しいと無条件に認める!」と、スケールの大きい箇条書きを真剣な顔で書き連ねていた私に、妻のミクが温かいほうじ茶を差し出しながら声をけてきた。
「さっきから神様がたくさんいるのは我々の平和のためだ!とか無条件で多様性を認めよ!って、一人で何の国際平和会議を開いているの?」
「ふふふ、ミクよ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、世界平和を一身に背負った外交官かのような眼差しで語り始めた。
「世界中に多様な神様が存在する深遠な理由について、思索していたのだよ! もし神様が1つだけだったら自分の神こそが絶対だと譲らず、争いが起きてしまう!他人を大切にするという本質は同じなのだから、違いを尊重し合って多様性(ダイバーシティ)を受け入れることこそが、家庭から世界平和に至る第一歩なのだよ!」
私が熱っぽく「多様性の尊さ」と「お互いを認め合う平和の理論」を語り尽くすと、ミクはほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。違いを尊重して、相手の意見も無条件で認めるのがダイバーシティねぇ」
「うむ!自分だけが正しいというエゴを捨てることが大切なのだよ!」
「じゃあ、お父さん。今日の夕飯の時、今夜のメインディッシュはハンバーグが良い! 魚料理なんて認めん!って自分の意見を押し通そうとして、子どもの秋刀魚を半分奪おうとしていた人は誰かしら?」
「えっ?」
ミクはニコニコしながら、食卓の上のメニュー表(我が家の献立メモ)を指さした。
「世界平和やダイバーシティをノートに熱弁する前に、まずは我が家の夕飯の多様性を認めたらどうなの? 自分の好みを一番に押し付けていた人がエゴを捨てろなんて言っても説得力ゼロよ?」
「ぐっ! な、なぜそれを! あれは魚の栄養価値を再確認しつつ、ハンバーグとの共存可能性を探る平和的対話の一環であって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの! 他人の価値観を認める第一歩として、明日の夕飯が焼き魚でも文句を言わずに笑顔で食べるダイバーシティ精神を見せなさいな」
ミクの容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに己のエゴを猛省し、明日はどんなメニューであっても感謝とともに受け入れ、我が家の平和と多様性を全力で守ってまいります」
神々の多様性と平和の哲学に思いを馳せつつも、食卓での我がままぶりをあっさり暴かれて苦笑いする私。
ミクの愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と夕飯の平和を守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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