広島駅前徒歩8分。
サンタ第2工房の朝は、木の香りと、作業台の上の端材の山から始まる。
その日の午前。
ミクさんが、作業中のタダシさんに声をかけた。
「タダシさん、来週のどこかで美容院に行くから、
その時間は工房にいないかもしれないわね」
タダシさんは、工具を持ったまま顔を上げた。
「わかりました。予定だけ教えていただければ大丈夫です」
言いかけた言葉――
「ミクさん十分綺麗ですよ」
は、飲み込んだ。
(言ったら怒られる気がする)
ミクさんは、少しうきうきした声で続けた。
「美容院って、行く前から嬉しいのよね。
楽しみだわ」
タダシさんは、その様子を見て
(ミクさん、こういうとき本当に楽しそうだな)
と思った。
✂️そして美容院当日(月曜日)
月曜日の午後。
工房はいつも通り作業音が響いていた。
タダシさんは、端材の整理をしながら
(ミクさん、今日は午後いなかったな)
と思ったが、特に深く考えなかった。
夕方。
ミクさんが戻ってきた。
「お疲れさま、タダシさん」
「お疲れさまです」
タダシさんは、いつも通りの挨拶を返した。
本当に、いつも通りだった。
ミクさんの髪型が、
- トップが少し軽くなって
- 前髪の流れが変わって
- 全体の雰囲気が柔らかくなっていたのに――
タダシさんは、まったく気づいていなかった。
(なんか、髪の感じが違うような?
いや、気のせいか?長さは変わってないし)
そんな程度だった。
🌙帰り際、ミクさんが打ち明ける

作業が終わり、帰る準備をしていたとき。
ミクさんが、ふと声をかけた。
「タダシさん、今日ね。美容院へ行ってきたの」
「えっ?」
「だから、午後3時から5時までいなかったのよ。
その間、もし用があっても対応できなかったから、ごめんなさいね」
タダシさんは、慌ててミクさんの髪を見た。
「あーー!なんか感じが変わったような?
いや、道理できれいだなと思ったんです。
はい、すごくきれいです。ほんとにきれいです。
あ、いや、前からきれいでしたけど、今日はさらに」
連発した。
ミクさんは、じっとタダシさんを見た。
そして――
🔨ピシャリとひとこと
「タダシさん。
こういうことはね、気がついたらすぐに言わなきゃ」
タダシさんは、肩をすくめた。
「はい。すみません」
「女性はね、髪を整えた日は気づいてほしい日なのよ。
長さが変わらなくても、雰囲気が変わることだってあるの」
「はい。次から気をつけます」
ミクさんは、少しだけ優しく笑った。
「まあ、いいわ。
あなた、悪気がないのはわかってるから」
タダシさんは、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
(次は絶対に気づこう)
工房には、木の香りと、
ミクさんの指導を受けて少し成長したタダシさんの気配が
静かに漂っていた。





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