広島駅前徒歩8分。
サンタ第2工房の午後は、木の香りと、タダシさんの図面を見つめる時間が長くなることで、ゆっくりと流れていた。
今日もタダシさんは、作業台の前で図面をじーっと見つめている。
(また始まったわね)
ミクさんは、コーチング講座で学んだ
人間はすぐに切り替えられないという言葉を思い出した。
🪵昔のミクさんならこう言っていた
「タダシさん、早く仕事を始めてください!」
「何回も言わせないでください!」
「いいかげんにしてください!」
「まだ始まってないのですか?」
「もう知りませんよ、納期に遅れますよ!」
「遅いですよ!」
しかし、これらの言葉はすべて逆効果だった。
タダシさんは、命令されると脳がムッとして、
さらに動かなくなるタイプだったのだ。
(あのコーティング講座で一番ゾッとしたのよね
言うことを聞かない相手にしてた声かけが
すべて、間違いだったっていう……)
🔧今のミクさんなら、こう言う

※タダシさんが図面を見つめて動かないとき。
「図面ばかり見直していないで早く作業を始めてください」
→「あと何分で作業を始められそうですか?」
※タダシさんがダラダラしているとき。
「何回も言わせないでください」
→「タイマーセットしたから、それまでに作業を始めましょうね」
※タダシさんが集中できていないとき。
「タダシさん、いいかげんにしてください」
→「チェストの図面、どういうタイミングで終わりそうですか?」
※納期が迫っているとき。
「納期があるから、ダメって言いましたよね?」
→「次は、どのようにしたらいいですかね?」
※まだ準備しかしていないとき。
「まだ始まってないのですか?」
→「もう、作業の準備始めているのですね。あと一歩ですね」
※焦ってもらいたいとき。
「もう知りませんよ、納期に遅れるかもしれないから」
→「私、待ってますね」
※イライラしたとき。
「遅いですよ!」
→「作業が終わったあと、何しましょうか?」
🪑効果てきめんで、動き出すタダシさん
「タダシさん、あと何分で作業始められそうですか?」
「えっと。10分くらいでいけます」
「じゃあ、4時30分ですね。10分後にスタートしましょう」
「はい、わかりました」
(動いたわ)
ミクさんは、内心ガッツポーズをした。
🌙ミクさん自身への声かけ
コーティングを習う前のミクさんなら、
「うまくいかないのは自分のせい」
「私が悪いんだ」
と、自分を責めてばかりだった。
でも今は違う。
- 「私の言い方が悪かったのかもしれない」
→「期限内に納品できたんだから、それだけで合格」 - 「もっと完璧にやらなきゃ」
→「できているところを認めればいい」 - 「私が全部やらないと」
→「任せられるところは任せていい」
ミクさんは、少し肩の力が抜けた。
(うまくいかないのは私のせいじゃないし、
気づいた今から、変えていけばいいのよね)
🌲その日の夕方
タダシさんが作業を終え、片付けをしていると、
ミクさんが声をかけた。
「タダシさん、今日の作業、いいペースでしたね」
「ありがとうございます。ミクさんの声かけが、
なんか、やりやすかったです」
「そう?なら、よかった。
人って、急に切り替えるのが苦手らしいの。
だから、少しずつ動けるよう、声をかける必要があるの」
タダシさんは、少し照れたように笑った。
「ミクさん、すごいですね。
私、言われたとおりにすると動きやすいです」
ミクさんは、軽く笑った。
「タダシさんは素直だから、声かけを変えると
すぐ動いてくださるのよ。
そこは、タダシさんのすばらしさです」
タダシさんは、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
サンタ第2工房は今日も稼働中。
木の香りと、ミクさんのコーチングが、
タダシさんをゆっくりと牽引していく。





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