広島駅前徒歩8分。
サンタ第2工房の朝。
タダシさんは作業台で端材を整理しながら、昨夜のことを思い返していた。
(実家で寝る前にテレビつけたら、NHKで量子もつれの番組やってたんだよな
あれはすごかった。理解できなかったけど、すごかった)
量子が宇宙の果てと果てまで離れていても、
まるでテレパシーみたいに同じ動きをする――らしい。
アインシュタインでさえ
「そんなことあるはずがない」
と言ったという。
(いやぁ。宇宙ってすごい)
タダシさんは興奮しながら作業していた。
そこへミクさんがやってきた。
「タダシさん、なんかニヤニヤしてるけど、どうしたの?」
「ミクさん、聞いてくださいよ。昨日、量子もつれの番組を見たんです!」
ミクさんは、工具を置いてそちらを見た。
「量子?」
「はい!量子です!
量子って、宇宙の果てまで離れてても、テレパシーみたいに同じ動きをするんですよ!
アインシュタインですらそんなことあるはずがないって言ったのに、
半世紀かけて証明されたんです!」
ミクさんは、完全に無表情になった。
「へぇ」
(あ、これ興味ないやつだ)
ミクさん、一般女性らしい興味ゼロ反応
「ミクさん、ベルの不等式っていうのがあってですね、
不等号が破れたら偶然じゃないって証明できるらしくて――」
「不等号?」
「はい!つまり、量子がシンクロしてるのは偶然じゃなくて、
何らかの意思が働いてる可能性が――」
「タダシさん」
ミクさんは、ピシャリと言った。
「私はね、量子とか宇宙とか、そういうの全然興味ないのよ」
「ですよね」
「でも、あなたが楽しそうなのはわかるわ」
ミクさんは、少し笑った。
「それで十分よ」
ミクさん、興味ゼロなのに指導者としてかっこいい
「タダシさん。
あなたは難しいことを面白がれるタイプなのよね」
「はい。好きです。宇宙とか量子とか理解できないけど好きです」
「理解できなくてもいいのよ。
大事なのは、あなたが面白がっているってこと」
ミクさんは、作業台の端に手を置いて続けた。
「人はね、楽しそうにしている人のところに集まるの。
あなたが量子の話をしてるとき、すごく楽しそうだったわよ」
タダシさんは、少し照れた。
「でも、ミクさん、興味ないですよね?」
「興味はないわよ。
でも、あなたが楽しそうなら、それは工房にとってプラスなの」
「プラスですか?」
「そう。
あなたが楽しそうにしていると、空気が柔らかくなるの。
それが人が集まる技術よ」
ミクさんは、さらっと言った。
「だから、量子の話は理解できないけど、
あなたが語るのは止めないわ。
あなたの楽しさは、工房の財産だから」
私は、胸の奥がじんわり温かくなった。
(ミクさん興味ゼロなのに、なんかかっこいい)
最後にミクさんがひと言
「でね、タダシさん」
「はい」
「量子もつれより、まずは今日の納品をシンクロさせてちょうだい」
「はい」
ミクさんは、興味ゼロでも、
いつも私を現実に引き戻してくれる。
その姿が、なんだかとても頼もしかった。
工房には、木の香りと、
量子の話をして浮かれている私を
軽くいなしながら導くミクさんの気配が
静かに漂っていた。






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