「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルでノートを広げ、「神様は心のなかにいる」「最も近い場所が最も遠い場所」「町内会より自分の中」と、哲学的なメモを真剣な顔で書き連ねていた私に、ミクが温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきから、宇宙より地球、地球より日本、日本より町内会、町内会より我が心!って、一人で何の場所検索をしているの?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私は、ほうじ茶を一口すすり、深遠な真理に辿り着いた修道士かのような眼差しで語り始めた。
「神様がどこにいらっしゃるのか、という永遠の問いについて思索していたのだよ!岩や山、宇宙を探すのもいいが、神様は最も近く、そして最も遠い自分の心の中にいらっしゃるのだ!近い場所は自分で何とかできるからこそ、神様は心という遠い場所から温かく見守ってくださっている。そしてみんなの心の中にも神様がいますようにと願うことこそが大切なのだよ!」
私が熱っぽく「心のなかの神様」と「遠くから見守る存在」について語り尽くすと、妻はほうじ茶をすすりながら、じとーっとした目を向けた。
「へぇ。一番近い場所は、自分で何とかできるから、遠くから見守ってくれているねぇ」
「うむ!近くの日常は自分の力で誠実に整えるべきなのだよ!」
「じゃあ、お父さん。さっきから俺の眼鏡はどこに行った?心のなかを探しても見つからん!神様、眼鏡の場所を教えてくれ!って大騒ぎしていたけれど、自分の頭の上に乗っかっている眼鏡くらいは自分の力で何とかしたらどうかしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、私の額の上に載ったままの眼鏡を指さした。
「宇宙や町内会や心のなかを探す前に、自分の頭の上を探しなさいな。一番近くは自分で何とかできるってノートに書いた端から、神頼みで眼鏡探そうとしてどうするのよ?」
「ぐっ!な、なぜそれを!あれはあまりに近すぎる場所ゆえに、心の眼で探していたのであって!」
痛いところを突かれ、私は大汗をかいて言葉に詰まる。
「言い訳しないの!自分の身の回りのことすら自分で解決できない人に、神様も呆れて遠くから見守るしかないわよ」
妻の容赦ないツッコミに、私は完全に降参した。
「御意。ただちに頭の上の眼鏡を正しく装着し、己の身の回りはすべて自分の手で整えてまいります」
神様の居場所と心の深遠さに思いを馳せつつも、頭の上の眼鏡捜索劇をあっさり呆れられて苦笑いする私。
妻の愛あるツッコミに感謝しながら、私はノートを閉じ、我が家の平和と自分の身の回りを守るべく、静かにほうじ茶を飲み干すのだった。





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