「お父さん、ちょっと聞きたいんだけど」
夜の10時過ぎ。リビングのテーブルで電子回路の図面と古いノベルティのメモ帳を広げ、「父なる神と、我が家のお父さん(じいじ)の共通点」について真剣にノートをまとめていた私に、ミクが温かいほうじ茶を差し出しながら声をかけてきた。
「さっきからエンジニアの父親とか、天ぷらの揚げ方とか、1万円の振込って、何だか脈絡のないワードを嬉しそうに並べてるけど。今度は何のお話?」
「ふふふ、妻よ。よくぞ聞いてくれた」
私はほうじ茶を一口すすり、どこか遠い目をして微笑んだ。
「無口で我慢強く、電気エンジニアとして家族を養ってくれた私の父の姿を思い出していたのだよ。曲がったことが嫌いで、でも子供にはやりたいようにやらせてくれて、遠くからじっと見守る。父を見ていると、天におられる父なる神様も、きっとこんなお方なのだろうなぁと深く納得していたのだ」
「へぇ。確かにお義父さん、昔から無口だけどすごく優しくて温かい人よね。お母さんの小言にも(もお、ええわ)の一言でグッと堪えてらっしゃるし」
「だろ!?散歩中に木下大サーカスや瀬戸内海の造船所の思い出話を聞くと楽しそうに話してくれるし、私がPICマイコンの回路の相談をすると、嬉しそうにノウハウを教えてくれるのだ!頼られると本当に嬉しそうでねぇ。最近もネットバンキングのテストとか言って、電子レンジ代の1万円を突然振り込んでくれたりしてまさに恵みの神様だよ!」
熱っぽく語る私に、妻はほうじ茶を一口すすぐと、じとーっとした目を向けてきた。
「なるほどねぇ。お義父さんが無口で愛情深くて、お父さんを遠くから温かく見守ってくれている神様みたいな存在だということはよく分かったわ。で?」
「で、とは?」
「お義父さんは放任して失敗から気づかせるタイプのお父様だったかもしれないけど、その息子であるお父さんはどうかしら?」
「えっ?」
妻はニコニコしながら、私がさっき脱ぎ散らかした靴下と、テーブルの端に放置された半田ごての箱を指さした。
「お義父さんの我慢強さや優しさを真似するのは素晴らしいことだけど、お義父さんのやりたいようにやらせて失敗から学ばせる教育方針に甘えて、リビングを散らかしたまま、これも神様の見守り、なんて顔で開き直ってないかしら?」
「ぐっ!それは!」
痛いところを突かれ、言葉が詰まる。
「お義父さんから学んだのが頼られると嬉しいと1万円のありがたみだけじゃダメよ。お母さんみたいに近くで小言を言う私の存在があってこそ、我が家のバランスが保たれているんだからね」
妻の容赦ないツッコミに苦笑いしつつ、私はそっと立ち上がって半田ごての箱を片付け始めた。
「御意。ただちに散らかった工具を片付け、お母様(妻)の指導に従う素直な子供になります」
「よろしい!次にお義父さんに会ったときは、屁理屈をこねずに、お父さんいつもありがとうって素直に言いなさいね」
「はい!」
遠くから見守ってくれる父の優しさと、目の前でしっかり導いてくれる妻の小言。
二つの愛に挟まれている幸運に感謝しながら、私はほうじ茶を飲み干し、笑顔で片付けへと前進するのだった。





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