今回からサンタ第2工房のシーズン2「悩んでもいい」です。シーズン1でのミクは、芸術家として生きたいと、タダシさんに伝えました。タダシさんはあいかわらず、優柔不断な優しさでミクさんのもとへ通い続けています。
シーズン2では、ミクさんの意外な努力と、努力を続ける健気さを描いていきます。
いつものサンタ第2工房の朝。
タダシが扉を開けた瞬間、
思わず足を止めた。
「え?」
工房の床が、見えない。
- 商品、商品、商品。
- 積み木、パズル、木の車、棚、机、チェスト。
まるで木の津波が押し寄せたように、
店内は足の踏み場もないほど埋め尽くされていた。
ミクさんは、木片を抱えながら言った。
「タダシさん、こんにちは。
ちょっと物が多すぎる気がして」
タダシは思わず笑った。
「ちょっとどころじゃない気がしますが」
ミクさんは、値札を貼りながら続けた。
「断捨離しなくちゃと思って。
どんどん作って、どんどん売らなくちゃね」
値札には赤い文字。
- 半額
- 30%オフ
- 20%オフ
突然の10周年記念セール。
タダシは、木の山の中で立ち尽くした。
倉庫にしている一室

数日後。
ミクさんはタダシを呼んだ。
「タダシさん、ちょっと見ていただきたい物があって」
案内されたのは、
工房から少し離れたアパートの一室。
扉を開けた瞬間、
タダシはまた固まった。
「ここも、商品だらけですね」
部屋いっぱいに家具、机、棚、チェスト。
積み木の箱が山のように積まれ、
引き出しの中にも木のパーツがぎっしり。
ミクさんは、まるで宝の山を見せるように言った。
「タダシさん、このチェスト差し上げます。
ほかにも欲しいものがあったら、なんでもどうぞ。
これなんかも、どうですか?」
タダシは思わず言った。
「ミクさん
どうしてこんなに?」
ミクさんは、少しだけ目を伏せた。
「理由は、また今度お話しますね」
その言い方は、
どこか胸の奥に重さを含んでいた。
月末が近づいたころ

10日ほど経った月末近くの夕方。
工房の空気はいつもより静かだった。
ミクさんは、作業台の前で木片を並べながら言った。
「タダシさん
あのアパート、引き払おうと思っているんです」
タダシは息をのんだ。
「引き払うんですか?」
ミクさんは、淡々と続けた。
「家賃が15%上がるそうで。
借りたときの大家さんはいい人だったんですけど
今の大家さんは近くに住んでいなくて。
管理も、ちょっと」
タダシは胸がぎゅっとなった。
(あの倉庫の部屋がなくなる
ミクさんの秘密基地の別館みたいな場所が)
ミクさんは、タダシの表情に気づいたのか、
少しだけ笑った。
「タダシさん、そんな顔しないでください。
お店をやめるわけじゃありませんから」
タダシはうなずいた。
「はい。
分かっています」
でも胸の奥は、
なんとなくさみしかった。
あの部屋は、
ミクさんが10年間積み重ねてきた作品の歴史だったのだろう。
その部屋がなくなるということは、
ミクさんの人生の一部が静かに幕を閉じるような気がした。
ミクさんは、木片をそっと置きながら言った。
「タダシさん
これから、もっと身軽になって生きたいんです。
だから、断捨離なんです」
その声は、
強くて、静かで、
どこか少しだけさみしかった。
タダシは思った。
ミクさんは、また新しい人生を選ぼうとしている。
その選択を、俺はそばで見守るしかない。
工房の夕暮れの光が、
二人の影を静かに重ねた。


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