第32話 言葉を交わさない時間の尊さ

迷ってもいい 第32話 サンタ第2工房
迷ってもいい 第32話
はじめに(サンタ第2工房)

この物語は、私が大好きな木のおもちゃ屋さんをモチーフにして作成しました。主人公のミクさんは、妹の孫の名前からつけています。お気に入りに追加していただけたらうれしいです。

登場人物紹介

職人見習のタダシです。

サンタ第2工房のミクです。

広島駅へ向かう帰り道。
イルミネーションの余韻がまだ二人の肩に残っていて、
街のざわめきさえもどこか柔らかく聞こえていた。

ミクは、タダシの少し前を歩いていた。
歩幅はゆっくりで、
まるでこの時間を急いで終わらせたくないようだった。

タダシは、その背中を静かに見守っていた。

言葉がなくても伝わるものがある

しばらく歩いたあと、
ミクはふと立ち止まり、
振り返ることもなく、ただ空を見上げた。

その横顔は、
光のトンネルの中で見せた柔らかさとは違い、
どこか深い静けさをまとっていた。

タダシは声をかけようとした。
でもやめた。

(今は、言葉じゃないんだ)

ミクの肩が、
ほんの少しだけ震えているように見えた。

寒さではない。
さみしさでもない。

ただ
心がほどけていくときの、
あの静かな震えだった。

ミクが求めていたのは沈黙の安心だった

ミクは、ゆっくりと歩き出した。
タダシもその横に並ぶ。

何も話さない。
何も聞かない。

でも、
その沈黙は不安ではなく、
むしろ安心そのものだった。

ミクは、
言葉を交わさない時間の中で、
少しずつ呼吸が整っていくようだった。

タダシは思った。

(ミクさんは、言葉よりもそばにいることを求めているんだ)

ふと、ミクが小さく笑った

駅が近づいたころ、
ミクはゆっくりとタダシのほうを向いた。

「タダシさん
 さっき、何も話さなくてごめんなさい」

タダシは首を振った。

「ミクさん。
 話さなくていい時間って、ありますよ」

ミクは、少し驚いたように目を見開いた。

「ありますか?」

「はい。
 言葉がないほうが、気持ちが近くなる時間もあります」

ミクは、胸の前で手をぎゅっと握りしめた。

「タダシさんといると、
 沈黙がこわくないんです」

その声は、
冬の空気よりも静かで、
イルミネーションよりもあたたかかった。

言葉を交わさない時間は二人の距離をそっと近づけた

駅のホームに着くころ、
ミクは小さく言った。

「タダシさん
 また、こういう時間を過ごしたいです」

タダシは迷いなく答えた。

「はい。
 ミクさんが望むなら、いつでも」

ミクは、
光のトンネルで見せた笑顔よりも柔らかい笑顔を浮かべた。

その笑顔は、
かわいいではなく、
タダシにとってはただただ愛しいものだった。

おしまいに(サンタ第2工房)

タダシです。読んでいただいて、ありがとうございます!

ミクです。今日も一日お疲れ様でした。

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