第10話 タダシの恥② 土手を50m燃やした日

迷ってもいい
サンタ第2工房関係者の抱負…
木工作家さん
小物作家
次は、かわいい
ブランコを作って
みますね。
木工職人さん
木工職人
問題は、四角い積み木を
どうやって
かわいくするか、だ。

サンタ第2工房の午後は、木の香りと静かな光がゆっくり混ざり合う時間だった。昨日、タダシが語った「肥溜め事件」は、ミクの静かな笑いとともに、工房の空気を少しだけ柔らかくしていた。今日も扉を開けると、ミクさんは作業台の前で木片を磨いていた。

「こんにちは、タダシさん」

その声は、昨日よりも少しだけ明るかった。タダシが作業台の横に立つと、ミクは木片を置き、
少しだけ照れたように言った。

「昨日のお話。続きが、もしあるなら聞きたいです」

その言い方は、からかいではなく、その人の生きてきた道を知りたいという静かな強さだった。

タダシは、ゆっくり口を開いた。小学3年生、冬休み前の日曜日の午後のことだ。

「ミクさん、私、小学3年生のころ、土手を50m燃やしたことがあるんです」

ミクの手が止まった。

「50m、ですか?」

タダシは、少し照れながら話し始めた。

「冬休み前の日曜日で、友達の田中くんと、自転車で面白いことを探していたんです。田舎で、川と土手しかなくて、毎日同じ遊びばかりで、何か新しいことがしたくて」

ミクは静かにうなずいた。

「その気持ちは、分かります」

タダシは続けた。

「家の引き出しにロウソクがあったのを思い出して、それで、八百屋さんから発泡スチロールをもらってきて。土手の草むらに秘密基地を作ろうとしたんです。」

ミクは、少しだけ目を丸くした。

「秘密基地?」

「はい。枯れ枝で囲いを作って、発泡スチロールの壁を立てて、ロウソクを空き缶の裏に垂らして、
もっと大きなロウソクを作ろうとしていました」

ミクは息をのんだ。

「その火が?」

「はい。土手の枯れ草に燃え移ってしまって、乾燥しているし、水もないしで、小さな火が、どんどん広がっていって」

ミクは、胸の前で手をぎゅっと握りしめた。

「怖かったでしょう」

「はい。二人とも慌てて消そうとしたんですが、どうにもならなくて。結局、逃げました」

ミクさんは、静かに目を伏せた。

50mの黒い跡と、消防車の赤い影

「怖くなって、小学校まで自転車で走って、グラウンドで1時間くらい遊んで。そのあと、川の対岸から土手を見たら、すっかり50mくらい焼けていて。そのときは、消防車が帰るところでした」

ミクさんは、しばらく黙っていた。そして、ゆっくりと口を開いた。ミクさんの反応は、いつもの「かわいい」ではなかった。

「タダシさん、それはかわいい話ではありませんね」

タダシは身構えた。

(怒られるかな)

しかしミクは、静かに、強く言った。

「生きてきた証です」

タダシは息をのんだ。ミクは続けた。

「子どもは、時々とんでもないことをします。でもそれは、世界を知ろうとする力の裏返しです。危険も、失敗も、恥も。全部、成長の一部です」

タダシは、胸の奥が熱くなった。ミクは、木片をそっと置きながら言った。

「タダシさんの話を聞くと、そのときの気持ちが伝わってきます。ただ悪いことをしたんじゃなくて、
何かを探していたんですよね」

タダシはうなずいた。

「はい。何か面白いことを探していました」

ミクは、静かに微笑んだ。

「その気持ち、私は好きです。危険でも、恥でも、生きようとしていた証だからです」

その言葉は、工房の木の香りよりも深く、タダシの胸に沈んだ。

タダシの胸に落ちたもの

タダシは思った。

(ミクさんは、俺の恥を笑わない。俺の生きてきた道として受け止めてくれる。)

それは、誰にもされたことがない優しさだった。その日工房を出るとき、タダシの胸の奥は、
仙台の光よりも深く、静かに温かかった。

ミクの言葉が、タダシの恥を生きる力に変えた日だった。

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